「日本以外全部沈没」公式 北朝鮮の核実験で揺れる国際情勢のさなか、この映画を観るというのは我ながら
まことに時宜を心得たふるまいであると言わざるを得ない。
邦画では珍しい
ブラックなコメディを堪能した。
(以下ネタバレ含む)
◇意外! 原作に忠実
原作は筒井康隆。小松左京が「日本沈没」を大ヒットさせたので、それをパロディにしたもの。わずか
原稿用紙30枚の短編小説である。
とんでもない映画だ、と思った人もいるかもしれないが、そもそも原作がこうなのである。映画では、時代こそ現在になったが、キーとなるセリフは原作そのままのものが使われ、プロットの変更もない。原作の背景をうまくふくらませて映画化している。
◇昭和の香り漂うチープな特撮
今ならCGだってそんなに高価じゃないだろうに、
ミニチュアセットを爆破しての特撮シーンなんて! 個人的にはウルトラシリーズ以来で、
すげーなつかしい。おまけに
怪獣とのバトルまであるぞ(笑) 客観的に見てちゃちいのだが、それを声高に指摘するのは、文楽を見て
黒子が見えてると言うようなもんであり、紳士たるもの静観すべきであろう。
◇お安さと豪華さ。混沌としたキャスティング
某ハリウッド監督に、ターミネーターな俳優、ダイハードな俳優、小泉チルドレンな某議員、アジア諸国の首脳から、北の独裁者までが、
すべてそっくりさんの起用で登場し、まるでコント。
そうかと思えば、首相役が村野武範、防衛庁長官役が藤岡弘、と言う形で
歴代「日本沈没」の主役の共演が実現し、無駄に暑苦しい演技を見せている。
◇原作の過激さは一部マイルドに
仕事を失った外国人女優が、娼婦として安く買われる、なんて記述もある原作。エロいシーンが出てきそうなものだが、そのへんは避けてあったようだ。また、法王が
上野公園をバチカン市国にしようとして断られるというくだりは、さすがに危なすぎて映画には出なかった(笑)
◇「日本沈没」より深いテーマ性(憶測)
現実の日本は
弱腰外交、謝罪外交であるにもかかわらず一向に他国に認めてもらえないという、国民にとっていささか歯がゆい国になってしまった。
そんな中、日本以外全部沈没してしまったので、日本こそ世界! 日本人こそ選ばれた民族! 外人など人ではない! という状況が描かれたこの映画、
笑ってストレスの解消になるかと思ったらそう単純にもいかず、むしろ
自分の中に潜在するナショナリズムの醜さを突きつけられたようにも思え、どんな表情をしてみたらいいのやら判断がつきかね、ここで
「笑えばいいと思うよ」と言ってくれるシンジ君でもいてくれればと切に思う。
してみると「電エース」「日本音頭」「GAT(外人アタックチーム)」といったうすら寒いギャグまでも深遠な演出意図があるように見えてきて困る。いや、この監督は「ヅラ刑事」「いかレスラー」「かにゴールキーパー」の人であるからして
素でやっている可能性は高いのだが。
ただ、絵本から引用される手袋の挿話はきれい事に聞こえるのに、
最後のろうそくのシーンは真に迫って見えるのは、紛れもなくこの映画の実力だろう。
映画が終わったとき、私が気になったのは、ついに生まれることができなかった古賀の子供のことだった。
特撮世代度 10
外人演技力 3
観客選別度 7
個人的総合 8