通称「3月じゃないライオン」。
インドに生まれ、5歳で迷子になった少年サルーが、養子としてオーストラリアで育てられ、25年後、Google earthで自分の生家を見つけたという実話を基にしている。大人になったサルーを演じるのはデヴ・パテル。「スラムドッグ・ミリオネア」のあの青年が、すっかりオッサンになっており感慨深い。
ストーリーについては、上記の通り実話であり、「奇跡体験!アンビリーバボー」で観たという人もいるだろう。事の顛末を知りたいならそれで十分。しかし、そこはアカデミー賞ノミネート作品、映画ならではの表現が非常に優れている。
例えば眠るという表現。5歳のサルーは回送列車に入り込んで眠ってしまい、列車が動き出して知らない土地へ行ってしまう。眠りは、迷子となった直接の原因だ。そして、放浪の間、見知らぬ場所で眠るというのは非常に危険、かつ不安なことだ。この映画では、眠りのたびに暗転が印象的に使われ、シーンが断絶する。サルーの不安を観客が共有するような気持になる。オーストラリアで、安全な暮らしをするようになっても、眠りに関してのこの演出は続く。故郷がわからないサルーは、いつまでも迷子なのだ。
次に、帰るという場面。5歳のサルーは、迷子になった後、家に帰る場面を夢想する。多くの映画では、回想や夢想はそうとわかるように映像に加工が施されている。しかし「ライオン」はそうなっておらず、一瞬本当に帰れたのかと思ってしまう。その時の強い印象が、後で生きる。長じたサルーがGoogleでついに手掛かりを見つける場面がそれだ。地図をたどっていくPCの画面と、幼いサルーが帰る映像とが、交互に映される。わかっていても感動してしまう。
子供のサルーが無事に生き延びたのも奇跡なら、25年後に生家を見つけたのもまた奇跡。映画のご都合主義は嫌われるが、インドのファンタジックな映像を見せられると、なんだか納得してしまう。映像に説得され、映像に感動させられる、本物の映画だ。
映像美 8
子役演技力 10
養子の理由 10
個人的総合 9