2017年05月30日

ライオン 25年目のただいま その2

 迷子になったサルーは、施設に保護されるが、その環境は劣悪。オーストラリアに住む裕福な夫婦、ジョンとスーに養子としてひきとられることで、どうにか無事に育つこととなる。観客は、サルーの危険に満ちた足跡を観ているので、ああよかった、という感想が先に立つが、一つ重大な謎が残る。
 夫婦はなぜ養子をとったのか。
 この夫婦は、サルーを迎えた一年後、さらにマントッシュを養子にする。マントッシュは虐待のトラウマを抱えており、ジョンとスーを大いに困らせる。サルーとマントッシュの仲もまた、うまくはいかない。
 単に子供が欲しいのであれば、わざわざインドから、訳ありの子供を預かる必要などない。

(以下に、物語の核心となるネタバレを含む)

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2017年05月29日

ライオン 25年目のただいま その1

 通称「3月じゃないライオン」。
 インドに生まれ、5歳で迷子になった少年サルーが、養子としてオーストラリアで育てられ、25年後、Google earthで自分の生家を見つけたという実話を基にしている。大人になったサルーを演じるのはデヴ・パテル。「スラムドッグ・ミリオネア」のあの青年が、すっかりオッサンになっており感慨深い。
 ストーリーについては、上記の通り実話であり、「奇跡体験!アンビリーバボー」で観たという人もいるだろう。事の顛末を知りたいならそれで十分。しかし、そこはアカデミー賞ノミネート作品、映画ならではの表現が非常に優れている

 例えば眠るという表現。5歳のサルーは回送列車に入り込んで眠ってしまい、列車が動き出して知らない土地へ行ってしまう。眠りは、迷子となった直接の原因だ。そして、放浪の間、見知らぬ場所で眠るというのは非常に危険、かつ不安なことだ。この映画では、眠りのたびに暗転が印象的に使われ、シーンが断絶する。サルーの不安を観客が共有するような気持になる。オーストラリアで、安全な暮らしをするようになっても、眠りに関してのこの演出は続く。故郷がわからないサルーは、いつまでも迷子なのだ
 次に、帰るという場面。5歳のサルーは、迷子になった後、家に帰る場面を夢想する。多くの映画では、回想や夢想はそうとわかるように映像に加工が施されている。しかし「ライオン」はそうなっておらず、一瞬本当に帰れたのかと思ってしまう。その時の強い印象が、後で生きる。長じたサルーがGoogleでついに手掛かりを見つける場面がそれだ。地図をたどっていくPCの画面と、幼いサルーが帰る映像とが、交互に映される。わかっていても感動してしまう。

 子供のサルーが無事に生き延びたのも奇跡なら、25年後に生家を見つけたのもまた奇跡。映画のご都合主義は嫌われるが、インドのファンタジックな映像を見せられると、なんだか納得してしまう。映像に説得され、映像に感動させられる、本物の映画だ。

映像美 8
子役演技力 10
養子の理由 10
個人的総合 9
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2017年05月28日

ドラマ「ツバキ文具店」がとても良い

 「ツバキ文具店」は、NHKのドラマ。鎌倉の古風な文具店で、手紙の代書業を営む鳩子(多部未華子)が主人公。民放では到底不可能な地味の極みとも言えるストーリーだが、上質の邦画のような味わいがあり、とても良い。

 中でも感心するのが、手紙作成シーン。ドラマの趣旨としては、鳩子がいかに依頼人になりきって文面を生み出すかが重要なのだと思うが、私がそれ以上に惹かれるのが文房具の解説部分だ。手紙に合わせて、紙や筆記具を選ぶのだが、専門性が高くて毎回すごい。
 思えば、手紙などすっかり書かなくなった。つい最近まで一般的な教養だったはずなのに、急速に失われつつあるのが、手紙をめぐる文化の現状だ。それをドラマの形で留めることは、非常に意義あることだと思う。

 鳩子の祖母で、先代の文具店主を演じるのが倍賞美津子。昨年の映画、「あやしい彼女」は、倍賞が若返って多部になるというストーリーであり、すでに共演済み。息もぴったりと言えそうだ。
 多部の落ち着いたたたずまいは古風な背景に見事に馴染んでいる。一方、回想シーンで、グレてギャルになる部分の似合わなさたるや(笑)
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2017年05月21日

A 5th of BitSummit その2

●FLICAR
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 実は今回、ビットサミットに出向いたのはこのブースがあるためです。


 彼らはまだ在学生なのですが、出展に応募したところ、見事選ばれました。実は他にも応募したチームがあったのですが、すべて落選しています。会場に行き、なんとなく理由がわかりました。「FLICAR」はアートなどに海外ゲームの雰囲気があり、国際色豊かなこのイベントにうまく溶け込んでいたのです。ゲーム企業とほぼ対等に扱われているこの凄さ、当人たちは感じているのでしょうか。
 来場者からは、このゲームのリリースについて何件か問い合わせがあったようです。現状、実行可能な端末が限られるという理由で公開されていないのですが、改善したらGooglePlayに上げる予定です。スタッフもやる気になっておりますが、いかんせん学生ですので、気長にお待ちください。

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2017年05月20日

A 5th of BitSummit その1

 京都で5/20、5/21開催のビットサミットに行ってきました。
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 ビットサミットは、インディーズゲームの展示会です。
 東京ゲームショウのように、行列や混雑に悩まされることなく、スタッフとアットホームなやりとりをしながらゲームを試遊することができます。年々規模が大きくなっており心配したのですが、今年もその良さは健在でした。
 それにしてもこのイベント、客層が極端です。ただのゲームファンももちろんいるのでしょうが、業界の人がかなりの割合を占めており、そこかしこでスタッフと雑談しています。また、海外のゲームが多いせいか、外国人のスタッフやお客も非常に多いです。でもありがたいことに、彼らの多くは日本語が堪能です(笑)
 それでは以下、注目の展示物など。

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posted by Dr.K at 23:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 講師の独り言 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月17日

イニス倒産。しかし新作発表!

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 イニス倒産の報があったのは先週のこと。


 私は「応援団」シリーズの大ファンなので、それはもうがっかり。あの素晴らしいゲームを作ったスタッフはどうなってしまうのか。
 ところがほぼ同時に、そのスタッフによる新作がニュースになったので驚いた。


 調べてみたところ、昨年新しい会社が設立されていたことがわかった。


 時系列に並べると、まず昨年11月にイニスジェイが設立。今年3月にイニスがスピカと名を改め、5月に破産。破産時のスピカの社長は、名前から推測するにイニス元社長の妻であろうか。新しいところにスタッフを移したうえで会社をたたんだものと思われる。
 スタッフがゲームを作り続けているのはひとまず朗報。ヒットして新しい会社が軌道に乗ることを期待したい。
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2017年05月14日

自由すぎるゼルダ 「ブレス オブ ザ ワイルド」その5

 ようやくガノンを倒して、エンディングを迎えました。とはいうものの、祠やらミニチャレンジやら、すっ飛ばしたものが多いので、まだプレイするつもりですけどね。

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 オープンワールドを採用し、自由度の高さが特徴となっている今回の「ゼルダ」。しかし、自由度が高ければそれだけプレイヤーが目的を見失いやすくなります。例えば私は、「龍が如く」などプレイしようものなら、大切な人の命が危機にさらされる場面であっても、キャバクラに入り浸ってしまいます。
 一方、「ブレス オブ ザ ワイルド」には、そのような矛盾を避ける工夫があります。例えば、ハイラル城です。この城は世界のほぼ中央に位置し、ガノンの禍々しいオーラを放っています。どこからでも見えて気になるので、プレイヤーは何をしていても本来の目的を思い出します。ディズニーランドにおけるシンデレラ城、関東での富士山に匹敵するランドマークと言えます。

(注:以下に、ネタバレを含みます)

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posted by Dr.K at 00:32| Comment(0) | TrackBack(0) | ゲーム百鬼夜行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月07日

「進撃の巨人」31 戦士

 ついにこの話まで到達した。マンガで読んだとき、この作者どうかしてるんじゃないか、と思った名場面だ。
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まるで立ち話でもするかのようなさりげなさで、ライナーが正体を告白する。マンガでは、コマの端っこに小さく描かれるという常識外れの演出が施されており、二度見三度見してようやく内容を理解する読者が続出した。また、衝撃のネタバレとして、スキャンされた紙面がネットにも多数アップされたが、コラ画像だと思って信じなかった人もいたらしい。
 アニメでは、その内容を忠実に再現。ハンジたちの会話がノイズとして間にはさまることで、よりどうでもいい話のように聞こえるところがうまい。ライナーの声の演技にも磨きがかかっていて、ベルトルトの「彼は疲れているんだ」という言葉を真に受けてしまいそうになる。

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 それにしても、状況を見守るミカサの顔が怖すぎる。ひょっとしてライナーたちの話が聞こえているのだろうか。

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2017年05月06日

モアナと伝説の海

 ディズニーのアニメは、見た目通りの内容ではないことがあるので、気を付けないといけない。癒し系のロボットかと思ったら実はヒーローものだった「ベイマックス」、ほのぼの動物ものかと思ったら意外に社会派だった「ズートピア」。そして「モアナ」もまた、予想と異なる作品である。
 主人公のモアナは、村長の娘。ディズニーで年頃の女性が主人公だと、どうしても恋愛要素がありそうと思ってしまうが、意外や意外。海に出てからは、100%冒険、アクションに振り切った活劇だった。後味もスッキリ、痛快爽快である。
 CG技術も恐ろしく進歩しており、序盤の島の風景などは、キャラがいなかったら実写と見分けがつかないレベル。水と陽光の表現も言うことなし。

 今回、題材となっているのはポリネシアに伝わる神話だ。語り継がれてきた伝承には理屈などない。そのせいか、ディズニーお得意の計算づくのストーリー構成が破綻していて面白い。

(注意:以下にネタバレを含む)

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2017年05月03日

諸星大二郎「BOX 〜箱の中に何かいる」2巻

morobox2.jpg 「西遊妖猿伝」の新刊が出ないな、と思っていたら、諸星先生ったら別の連載をスタートさせていたんですね。しかも久しぶりの現代劇です。

 「BOX」は、謎のパズルに招かれた数人が、「箱」からの脱出を目指すという物語です。状況だけ見ると映画「CUBE」のようです。
 ですが、中身はいつも通りの諸星ワールド。「箱」の中では得体のしれない化物が跋扈し、一部では妖術バトルまで繰り広げられており、舞台さえ中国なら「諸怪志異」シリーズに入れておかしくない内容です。
 特筆すべきはキャラクターで、パンチラお姉さんやら、頭の足りないゴスロリ少女やら、諸星作品と縁のなさそうな人物が容赦なく取り込まれています。2巻ではついに主人公がボーイズラブ展開に巻き込まれることとなりました。しかし、ベテランが無理に世相を取り入れているような苦しさはなく、何をどう描いても諸星作品でしかないのがすごいです。クイズやらおまけやらもあり、先生自身が楽しんで描いているようで何よりです。
 とはいえ、なるべく早く悟空を天竺へ向かわせてほしいのですが。
posted by Dr.K at 16:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 手塚治虫 変容と異形 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする