5月1日、連休の真っただ中かつ映画の日、劇場は「アベンジャーズ」も「名探偵コナン」も「クレヨンしんちゃん」も満席です。ところが「バースデー・ワンダーランド」はガラ空き。いやあ、売れてないですねえ。かつて「クレヨンしんちゃん」を監督した原恵一は、この現状をどう見ているんでしょうか。
「クレしん」のせいで、ファミリー層に強い王道の作家と誤解されがちですが、原恵一はアニメ監督としては特異な人です。どんな題材でも、どんな絵柄になろうとも、生活感や現実感が生々しく表現されるのです。「河童のクゥと夏休み」「カラフル」「百日紅」、いずれの映画にもこの特徴ははっきり出ていました。
そんな原監督が、生活感や現実感とは最も遠い、ファンタジー世界の冒険を描くのが「バースデー・ワンダーランド」です。
主人公のアカネは、学校をズル休みしています。その原因となるエピソードが、回想シーンで描かれるのですが、ランドセルを背負っているのにびっくり。大人びたタッチで小学生に見えません。一般的なアニメのように、幼い子が幼くデフォルメされていないのです。アニメを見慣れている人ほど、違和感を感じる絵といえるでしょう。実際の小学生高学年はかなり大人びた子もいますから、ある意味リアルな表現と言えます。
アカネと叔母のチィは、地下室から異世界へ旅立ちます。美しいファンタジーの世界ですが、現実を下敷きにした描写が目立ちます。咲き乱れる花はケイトウです。おいしい食事は栗のスープでした。砂嵐は実写映画のマッド・マックスのようです。水中のシーンでは、架空の生物は登場せず錦鯉に乗りました。
そして、忘れちゃいけない猫の関所。「猫の恩返し」を思い出す場面ですが、こちらの方がずっと猫の性質をリアルに描いており、猫好きに媚びるかわいさがありません。
以上のように、リアリティ重視の世界描写は、錬金術や魔法が存在する荒唐無稽なストーリーとは変にずれて感じられます。緊張感がなく、自由過ぎるチィは面白いキャラですが、これも世界の危機に直面しているストーリーとはちぐはぐです。止めに、アカネの母がどうやらかつての〈緑の風の女神〉らしいとわかるのですが、その事で驚かせたり感動させたりしません。型にはまった演出を嫌う原監督らしいのですが、エンターテインメントとしてはひねくれすぎていると思います。
アカネの家は、母の手で見事にガーデニングされたお屋敷です。また、叔母のチィは、若いのに自分の店を持ち、謎のアイテムに囲まれています。裕福だなあ、では済ませられない浮世離れした人たちですが、このようなファンタジーに片足を突っ込んだ人たちだから、異世界から呼ばれたのかもしれませんね。
風景のリアル 8
食事のリアル 7
物語のリアル 2
個人的総合 6