2019年07月31日

岩明均「ヒストリエ」11巻

historie11.jpg 実に2年ぶりの新刊である。
 室井大資に作画を任せた「レイリ」は、テンポよく6巻にわたる物語を完結させたというのに、一人で描いてる「ヒストリエ」の方はこのペース。全然終わりそうにないが、ここまで来たらつきあうしかない。

 何しろ2年ぶりなので、直前の物語を覚えているかどうかが疑わしかったのだが、この巻では、パウサニアスという新キャラが話の中心となっており、大丈夫だった。エウメネスとどう関わってくるのか楽しみだが、それがわかるのは少なくとも2年後になる。鍵を握るのはオリュンピアスだと思われるが、このお妃がまたなかなかの人物で、今後も暗躍しそうなのだが、それがわかるのも2年後。たまらん。
 他で味わえない面白さをキープしているのは認めるが、なんとか休載を減らしていただけないものだろうか。
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2019年07月30日

バジュランギおじさんと、小さな迷子

 館長の今年一番のお勧め、とのことで観てきたが、確かにすごかった!

 物語はパキスタンの山奥から始まる。幼いシャーヒダーは、遊んでいて斜面を転げ、崖から落ちてしまう。え、そんな乱暴な理由で迷子になるの? と一瞬驚くがこれはフェイント。実際には、インドへ願掛けの旅行に行き、母とはぐれてしまうことになる。
 迷子のシャーヒダーは、祭りの中でバジュランギと出会う。主人公の初登場となるこのシーンは、インド映画らしい大群舞。堂々たる歌と踊りに、どれだけの大人物なのかと思うが、実はただの人だ(笑) そもそもこの歌は、伝統的な祭りの歌でも何でもなく、バジュランギが自己紹介をし、自撮りをしよう、と呼びかけるだけのしょうもない内容。振り付けに自撮りが組み込まれており、伝統と新しいものとがごたまぜになっている。
 バジュランギは彼女がどこの子か突き止めようとするが、彼女が口もきけず、字も読めないために手掛かりが得られない。表情とジェスチャーだけで語る彼女の愛らしさは、そりゃ助けたくなるよなあ、と物語の動機に強い説得力を与えている。
 バジュランギは馬鹿正直な人物で、そのせいでコメディシーンになるかと思えば、突然ヒーローになり、観客を感動させもする。幼い迷子を親にとどける物語なんて、日本だったら単館系の文芸作品にしかなるまい。ところがこれは、彼一人の行動が国家の歴史的な対立関係を変化させていく。そんな展開に現実味がないと言われればそれまでだが、娯楽というのは本来、そうした大きな理想を語るべきものだったのではないか。

 インドでの映画は、娯楽の王様。長い上映時間の中で、笑いも涙もアクションもすべてを飲み込んで一つの物語を成立させる。それを証明する一本として、これほどふさわしいものはないだろう。

主役の若々しさ 10
娘役の演技力 10
スケールの大きさ 9
個人的総合 9
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2019年07月28日

家へ帰ろう

 外国のご老人はどうしてこうも味があるんでしょうか。

 アブラハムは、アルゼンチンに暮らすおじいさん。どうやら老人ホームに預けられるらしく、娘たちが家の片づけをしています。そこで見つかった一着のスーツ。アブラハムは、70年前の友人との約束を思い出し、家族に内緒で故国ポーランドへ向けて一人旅立ちます。
 かつてユダヤ人として迫害を受けたアブラハムにとって、故郷は恐ろしく、忌まわしい思い出とともにあります。旅の途中で出会った人々が、その思いを少しずつ解きほぐしていく様子が心に染み入ります。
 そしてついにたどりついた、かつての家。アブラハムは友と会うことができるのでしょうか。

注:以下、物語の結末に触れています

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2019年07月24日

宇宙イカ革命「Splatoon2」 その24

 ゲーム発売から2年、せっせと参加し続けていたフェスも今回で最後だ。

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↑ラストフェスの会場で見つけた、良い心がけの御仁。

 最後となるお題は〈混沌〉VS〈秩序〉。だとするとインクの色は黒と白か、などと思っていたらまさかの金と銀。いつにも増してド派手なバトルが繰り広げられた。
 フェス専用のミステリーゾーンは、過去のものがすべて出てくる特別仕様。初日に参戦したら、見覚えのないミステリーゾーンが出て大いに焦った。Switchが売り切れていて買えず、はじめの頃のフェスには参加できていなかったのを思い出した。

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 そして最終日、ミステリーゾーンには禍禍しいアナウンスとともにヒメが降臨し、センパイキャノンを発射するという大掛かりなギミックが登場した。最後らしい演出なのだが、追加コンテンツのオクトエキスパンションが難しすぎて序盤で放棄している私は、その素晴らしさを実感することができず残念なことである。

 結果は、〈混沌〉側の完勝。私も、何やら強そうな3人チームに加えてもらって、連勝を経験することができ、楽しく終えることができた。今後は、気が向いたら、一切手を付けていなかったガチマッチに参戦したり、オクトエキスパンションに再挑戦したりしようと思う。
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それにしても、相手チームに社長が出てきた瞬間が最もカオスであった。
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2019年07月20日

「DAYS GONE」終末ツーリング日誌 その4

 気ままな放浪者という雰囲気だったディーコンだが、山を越えると一転、軍隊まがいの組織に入ることを余儀なくされる。

 今までの小さなキャンプと違い、山の南では島一つを丸ごと要塞化し、兵器を開発して臨戦態勢をとっている。やるじゃん、人類。
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 ここを仕切るのは、元軍人の指揮官。絞首台をステージ代わりにし、夜な夜な演説をぶちかます。これを聞くこともミッションのうちなのだが、いつでも「スキップ可能な会話」というUIが出ているのがなんだか皮肉だ。
 はじめのうちは、人類側を組織化してゾンビに立ち向かう、大いに結構、と思ってつきあうのだが、ストーリーが進むにつれて風向きがおかしくなってくる。堕落した人々こそが真の敵だと言い出し、組織の外の人間を攻撃し始める。こりゃいかん、やべえ奴だ。

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 そしてついに新兵器が完成し、今まで眺めるだけだったゾンビの大群と対決となる。装備は充分なはずなのだが、走ってくる大群の怖いこと。迫力に押されて狙いが定まらない。何度もゲームオーバーになり、逃げまどいながらどうにか一掃する。このとき、クリア条件が全滅なのはどうにかならないものか。最後に残った数匹がなかなか見つからず、間の抜けた時間が続いてしまった。どうせ世界はゾンビだらけなんだし、何匹か残したっていいじゃんよう。

 それにしても、画面を埋め尽くさんばかりのゾンビの大群はスムーズに動かせるのに、要塞の中で訓練されている人々は処理落ちしまくりなのは、どういう技術の差なんだろうね。
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2019年07月17日

海獣の子供

 「大切なことは言葉にならない」
 と、エンドロールで米津玄師が歌っていますが、全くその通りの映画です。とてつもなく豊かな映像と反比例するかのように、抽象化された言葉は何も伝えてくれません。

 夏休みを迎えた少女の日常から始まった物語は、〈海獣の子供〉である二人の少年との出会いをきっかけに、〈誕生祭〉と呼ばれる神秘の場所へと導かれていきます。この振れ幅の大きさは、「2001年宇宙の旅」にも匹敵します。
 全編が生命に満ちています。元気な少女、海中で躍動する少年たち、そして周囲を埋め尽くす海洋生物。CGで作られた部分も、特有の冷たさがなく、生々しく描けていて感心しますね。一方、地上の生命を象徴するのが、昆虫たちなのですが、なぜか蝶やカブトムシといったメジャーな奴は出てこない。カミキリムシやマイマイカブリが出演するというのは、相当にマニアックです。
 クライマックスとなる〈誕生祭〉の映像は、壮大なイメージの奔流となってすべてを包みます。しかし、ただわけのわからない映像とはちょっと違います。一つ一つはいずれも具体的な実在のもの。銀河だったり、微生物だったり、古代魚だったりと、図鑑を探せば出てくるものばかり。でも、それらがどんな脈絡になっているかわからないので、とても不気味なイメージになっているのですね。生命の誕生という極小の現象と、星の発生という極大の現象とがつながるという世界観は、「火の鳥」でも見たことがあるのですが、先導して解説してくれる火の鳥がいないこの物語の方が、より突き放した感覚を与えます。
 ラストシーン、少女は母の出産に立ち会い、赤ちゃんのへその緒を切ります。一般的にはめでたいこの場面を、少女は「生命を断つ感触がした」と語ります。羊水は海と同じ成分、というのはよく知られていますが、そうなると出産とは赤子が海から切り離される瞬間でもあるわけで、〈誕生祭〉を経て変化した少女の感性が表現されているのだと思います。
 原作はもっと詳しいらしいので、機会があれば比べてみたいと思います。

映像美 10
神秘性 10
面白さ 3
個人的総合 6

他の方の注目すべき批評
忍之閻魔帳: アシュラと並べるのは驚き
Yuenosu@Revue: わかりやすい考察

posted by Dr.K at 22:58| Comment(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月13日

「スナッチャー」収録で、PCエンジンminiを購入決定!


 メガドライブミニをどうにか予約できたところだというのに、今度はPCエンジンである。2020年3月発売で、50タイトルを収録。驚いたことに、CDROMのタイトルもいくつか入っている。そして燦然と輝く「スナッチャー」! こりゃもう購入決定である。

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 小島監督の初期の作品となるこのゲーム、「ブレードランナー」のような世界観でそれはもう大層面白かったのである。私はPC-88でプレイしたのだが、このバージョンはひどいことに未完。PCエンジンで初めて完結となったのだが、ハードを持っていなかった私はプレイしないままになっていた。28年越しの完結となりそうで、今からワクワクものである。
 「デスストランディング」も年内に発売になるし、小島監督の作品を新旧合わせて楽しめるとは、ファン冥利に尽きるというものだ。
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2019年07月12日

「DAYS GONE」終末ツーリング日誌 その3

 パンデミック後の世界で、人々はバリケードを張り巡らしたキャンプを作り、身を寄せ合って暮らしている。各キャンプはそれぞれに個性的なリーダーにより統治されている。

●コープランド
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 森のキャンプの統治者。カリスマ気取りのいけすかない野郎だ。ラジオ放送を使って、アメリカ政府の陰謀を告発しているが、その大半はディーコンでさえ馬鹿にする程度のもの。こういう世紀末っぽいキャラ、大好き。ヤクザみたいなもんで、意外と義理堅いところもいい。

●タッカー
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 元は温泉地だったと思われるキャンプの統治者。一見、規律が保たれたキャンプに見えるが、さすがは元看守、過酷な強制労働が基本になっており、脱走者が後を絶たない。ディーコンは町で少女を救って連れてくるのだが、ゾンビだらけの地獄から逃げたのに、いきなりこき使われるのでは同情を禁じ得ない。

●アイアンマイク
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 湖のキャンプを仕切る老バイカー。争いを嫌い、狂信者集団とも協定を結んで領地を守っている。ルールを重んじる優れたリーダーだが、武闘派の若者と衝突が絶えない。最近の政治をそのまま反映したかのようなストーリーで、武闘派の考えのなさにはマジで腹が立つ。

 さて、ディーコンがこれらのキャンプを行き来してミッションを消化すると、だんだんストーリーが進むという塩梅だ。マップ画面もほとんど埋まり、マイクに見送られて山を越えた。これはそろそろ終盤かな、と思ったら、新しいマップがどどんと追加された。まだまだストーリーあるじゃん! 終末ツーリングは予想の2倍くらいあるようだ。
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2019年07月05日

「進撃の巨人」59 壁の向こう側

 わずか10話とは思えない密度。怒涛の展開でついに海まで来た。ここまでをアニメ化できると想像した人がどれだけいただろうか。

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 原作では、シリアスなストーリーの最中に唐突にギャグが挟まれ、奇妙な味になっていた。エレンの操る巨人の名が明らかになり、直後に茶化されてしまうというこのギャグが、アニメでもそのまま再現されるとは思わなかった。

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 そして、調査兵団がついに海へ着く、感動のラストシーン。なぜかハンジはナマコをつかんでおり、笑いを誘う。これも実は原作通りの場面だ。

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 今クールの挿話はどこをとってもクライマックスであり、一話たりとも手を抜いていない素晴らしい出来であった。番組の最後に、ファイナルシーズンの告知も出たので、原作もそろそろ完結という事なのだろう。アニメ版は話を分かりやすく整理してくれるところがあり、大いに期待している。
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2019年07月02日

コンフィデンスマンJP ロマンス編

●周到なプロモーション
 あまり観るつもりがなかったのに、すっかり乗せられてしまった。
 連続ドラマが放映されたのはちょうど1年前。なので、私を含めたかつての視聴者に内容を思い出してもらう必要がある。そこで、映画の公開に合わせてスペシャルドラマ「運勢編」の放映となるわけだが、この内容にびっくり。見覚えのないキャラが加わっている! 実は、映画よりも後のエピソードとなっているのだ。
 このてのスペシャルドラマは、連続ドラマと映画との間をつなぐようなエピソードにするか、もしくは映画の外伝的なエピソードとなることが多い。「運勢編」は、どちらでもない。だが、新キャラがどういういきさつで加わったのか気になるので、まんまと映画を観せられることになってしまった。こうして宣伝の目的は達せられた。

●安定のストーリー運び
 いつものメンバーがいつものように活躍するのだが、モナコが新キャラなので新規視聴者にとっての良きガイドとなっている。また、香港が舞台で景観も良いので、きちんと映画規模の内容になっている。一部合成感が目立ったところもあったけどご愛敬。竹内結子はさすがの演技、三浦春馬もこれ以上ないハマり役で面白い。歴代ターゲットのカメオ出演など、ファンサービスも抜かりない。

●見事などんでん返し
 虚々実々の騙しあいとなるが、ドラマを観ていた者なら、最後にダー子が全部持っていくことはわかりきっている。しかし、二重三重に用意されたオチは、ほとんどの観客の予想を上回る。あまりにひねりすぎて、「結局どうやってお金を奪ったんだっけ?」と作戦の根本を見失ってしまう観客まで出る始末。
 エンドロールで見覚えのない生瀬勝久の名前が出て、「???」となっていたら、エンドロール後に間髪を入れず登場するなど、最後の最後まで観客をだまし続けていて天晴。元AKBの前田敦子を押しのけて、センターでアイドルをやっているダー子の厚顔も素晴らしい。この調子でキュートなババアを極めてほしい。

キャスティング 9
リアリティ 4
エンタメ度 9
個人的総合 8
posted by Dr.K at 23:29| Comment(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする