2020年03月29日

1917 命をかけた伝令

 良い映画だということは伝わるんだけど、なんだかのれない。多くの映画を観ていると、たまにこういうことがある。

 第一次世界大戦のイギリス軍、主人公の青年は、前線に攻撃中止の文書を伝えるよう命じられる。この伝令兵を観客にリアルに体験させる、というのが作品の方針である。
 カメラが主人公を追い続けるワンカット風撮影で、主人公が見聞きしない状況は一切説明されない。主人公に無名の俳優を起用し、キャラクター性を想起させない。この伝令の活躍は史実ではないが、ドキュメンタリー風の抑えた演出がさらなるリアリティを醸し出す。

 まず、ワンカット風の映像だが、メイキングを見ると確かにすごい。ただ、CGと比べては申し訳ないが、戦争もののゲームであれば似たような見せ方のものはあるし、自ら操作している分没入感も強い。三人称の全編ワンカットということであれば、PS4の「GOD OF WAR」もやっていて、素晴らしい効果を上げていた。ワンカット風の映画と言えば、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」もそうなのだが、あちらは、バトンタッチのように被写体をリレーしていく遊び心のある使い方だった。
 そして、主人公の視野のみで説明され、戦況を俯瞰しない物語は、「ダンケルク」と共通する。ただし、ダンケルクは陸海空それぞれの主人公がおり、それらが集約されることでクライマックスが盛り上がる。「1917」の方がはるかにストイックだ。

 結局のところ、私はストーリーラインのハッキリした、娯楽作品の方を好むということらしい。

劇場向け 10
撮影技術 10
風景美 8
個人的総合 5

他の方の注目すべきレビュー
三角締めでつかまえて:「地獄めぐりライド映画」とはよくぞ言った!
モンキー的映画のススメ:撮影が気になって没入してない! 確かに…
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2020年03月28日

父親が殺人犯のドラマ2態

 今期のドラマは、「テセウスの船」と「知らなくていいコト」を観た。どういうわけか、両方とも父親に殺人の疑いがかかっているという物語で、偶然にもほどがある。

●テセウスの船
 田村心(竹内涼真)は、殺人犯の息子として苦難の人生を送ってきたが、妻の死をきっかけに事件の現場を訪れ、タイムスリップ。そこで出会った若き日の父、佐野文吾(鈴木亮平)は、正義感にあふれた警察官だった…
 はじめは、鈴木亮平の渾身の父親演技もあって、「流星ワゴン」みたいな感動ものになるのか、と思ったら全く違った。
 その実態は、真犯人探しで視聴者を釣りまくるあざといドラマ。毎週、怪しい奴が出ては消される展開で、親子のうろたえぶりが不憫であった。本当は善良なはずの村人に、ミスリードのため怪しい態度をさせまくる脚本が姑息。とはいえ、最終回のラスト10分まで真犯人を明かさない徹底ぶりは天晴で、視聴率的には大成功をおさめた。だが個人的には、「ギルティ」以来の肩透かしな結末だった。
 失意の視聴者たちを、わずか1分の登場で和ませたハライチ澤部の功績は大。

●知らなくていいコト
 真壁ケイト(吉高由里子)は、ゴシップ誌の記者。恋も仕事も順調だったが、母の死をきっかけに、自分の父親が殺人犯、乃十阿徹(小林薫)であることが判明する。
 検事になったり、Webデザイナーになったりと、お仕事ドラマに引っ張りだこの吉高。このドラマも軽いタッチのストーリーなんだろう、と思っていたら全然違う。
 ケイトは、次々に異なる事件を追うが、それらが自分の身の上につながってくる。不倫のゴシップを追ったときには、自らも尾高(柄本佑)と不倫の関係になりつつあったし、黙秘する殺人犯の取材では、乃十阿はどうだったのかと思いを巡らせる。そして、ケイトの素性が他誌に暴露されることで、追う側から追われる側に状況が反転。苦境の中、周囲の協力で、父の事件の真相をスクープする記事を書き上げる。予想外に重いタッチの本格派だ。
 最終回、尾高(柄本佑)との不倫の恋は結ばれず、記事も社長の圧力で載ることなく終わる。なんともビターな結末となった。タイトルが指す内容が変化するのもお見事。
 ところで、尾高の行動がイケメン過ぎたために、結果にがっかりした人が多いようだ。最終回直後から、ディスクを買うのやめます、発言が相次いでいるが、恋愛ドラマにしては社会派過ぎたということだろうか。
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2020年03月24日

「映像研には手を出すな!」第12話 芝浜UFO大戦!

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 トラブルを乗り越えて完成した「芝浜UFO大戦」は、即売会で完売。「まだまだ改善の余地ばかりだ」と、浅草は新作の構想にとりかかる。

 最終回の後半を、「芝浜UFO大戦」のお披露目にあてるという思い切った構成。原作から逸脱し、作中作が予想外の出来となったことで、賛否が起こっている。自分が、これを「良い」と思える側であることを幸せに思う。
 出来たものが素晴らしかった、と伝えるだけならこんなに中身を見せる必要はない。感心している視聴者の反応を混ぜれば十分だ。だが、そんな平凡なサクセスストーリーは〈映像研〉には要らない。湯浅監督は、あえて中身を見せることで、私たちをDVDの購入者と同じ立場にしてみせた。
 「芝浜UFO大戦」は、一言で言うとなんだかよくわからないすげえアニメだ。先週までに積み上げられた、浅草の込み入った設定、水崎のこだわった動画が見事に形になっている。反面、ストーリーははっきり伝わらず、ご当地アニメとしても機能していない。このことが賛否を呼んでいるわけだが、否定する側の人は、既存の平凡なものに毒され過ぎてはいないか。わかりやすいストーリーや、ちゃんと宣伝になるご当地アニメなんて、プロがいくらでも作ってるだろう。〈映像研〉の連中はそんなものを作らない。アマチュアとして自分たちの情熱を優先して作った結果がこれなのだ。
 …という大義で、普通のアニメではめったに見られない動きを盛り込んでくる湯浅監督はなかなかしたたかだ。刺激を受けているアニメーターも多いんじゃないか。
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2020年03月22日

PCエンジンminiで「スナッチャー」

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 このために買ったPCエンジンminiだもの、もちろんプレイしますよ! 起動すると、CDがキュルキュル音を立てるという演出は、読み込み不良を想起させて心配になりますが(笑)

 「スナッチャー」は、古式ゆかしい選択肢式アドベンチャーゲーム。要所要所でアニメーションや音声が追加され、豪華にはなっているのですが、最終章の追加以外はPC-88版と同じ内容のようです。何もかも懐かしい。オープニングの風景が、あまりにも「ブレードランナー」で笑ってしまいます。30年前の私は「ブレードランナー」を見てなかったので、気づいていなかったんですね。
 そして、小島監督らしさを再確認。最初の任務で、敵に時限爆弾を仕掛けられるのですが、サポート担当のメタルギアから、テレビのボリュームを上げるよう言われます。言われたとおりにすると、カチカチ聞こえてきて、爆弾を見つけることになります。
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で、ドカーン、と。ボリュームを上げているので大音量となり、あわてて戻すことになります。プレイヤーの行動を予期したいたずらが面白いですよね。小島監督、「メタルギアソリッド」のサイコマンティス戦より先に、こういうことやってたのか、とちょっと感心。
 今どきのゲームと違って、フラグがガチガチの総当たり戦なので、だいぶ面倒ではありますが、後半へ向けてのストーリーの盛り上がりはいささかも古びません。30年ぶりに、88版では見られなかった結末を目指します。
posted by Dr.K at 19:22| Comment(0) | ゲーム百鬼夜行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月21日

私が「血と汗とピクセル 大ヒットゲーム開発者たちの激戦記」を買った理由

chitoaseto.jpg なんとも物騒な題をつけたものだ。「血と汗とピクセル」は、海外のゲーム開発を取材したノンフィクション。「アンチャーテッド4」や「ウィッチャー3」、「デスティニー」といったタイトルが取り上げられている。

 この本を買ったきっかけは、一本の記事だった。


 海外の方が企業はホワイト、というイメージがあったので驚いた。
 そして、なんだか非常になつかしい気持ちになった。なぜなら、かつて日本のゲーム会社もこんな感じだったからだ。決して褒められた働き方ではない。ただ、天才でもない開発者が〈すごいゲーム〉を生むためには、この方法しかなかったのかな、とは思う。私の上司が、若い企画屋が辞めていくことを〈自然淘汰〉と言ってはばからなかったのを思い出す。
 それからウン十年、日本の方が働き方改革が進み、いつのまにか立場が逆転したのかもしれない。

 さて、この記事で感心したのが、視点の公平性。
 こういう題材では、ライターの立場が重要だ。辞めたスタッフの視点に立てば、企業を糾弾するような内容になるし、企業側に立てば、過酷な開発を乗り越えた美談は、宣伝記事になってしまう。
 記事を担当したジェイソン・シュライアーは、そのどちらにもならず、双方への取材から冷静に状況を分析しようとする。なかなかできることではない。

 そのジェイソン・シュライアーの既刊が「血と汗とピクセル」だったというわけ。「アンチャーテッド4」の章を読むと、今回問題続出の「ラスト・オブ・アス パート2」もなんとかなるんじゃないか、と思えてくる。
posted by Dr.K at 13:26| Comment(0) | 馬鹿は黙ってろ! | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月20日

PCエンジンminiで「ドラゴンスピリット」

 コロナウイルスのせいで、3連休なのに外出がはばかられる状況に。ご安心ください、PCエンジンminiが届きましたよ

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 PCエンジン初期の目玉タイトルは、ナムコによるアーケードゲームの移植版でした。では、さっそく「ドラゴンスピリット」をプレイしてみましょう。
 おお〜、これはなかなか。近年のように、完全移植とはいきません。色々省かれてはいるのですが、限られた容量と性能の中で、うまく再現しているのが伝わってきます。
 特に感心したのがBGM。
 アーケードの「ドラゴンスピリット」は、CDがバカ売れするほどの名曲ぞろい。当時の最新技術であるFM音源を搭載し、エレキギターを響かせた音色で異彩を放っていました。今と違って、ゲーム音楽がCD化されることは少なかったので、上手い友人にプレイしてもらい、筐体からヘッドホンジャックを通じてカセットに録音したりもしました。
 さて、PCエンジンはFM音源なんて積んでいませんから、音色は全く違ったものになっています。でもアレンジが上手くて、これはこれでいい感じに聞こえるんですよね。絵もチープ化されているのでバランスがいいのかな(笑)
 「どこでもセーブ」もあることですし、ここは一丁最後までプレイして、音楽の出来を確かめることにしましょうか。オープニングはカットされてたけど、エンディングの曲が気になりますね〜
posted by Dr.K at 23:52| Comment(0) | ゲーム百鬼夜行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月12日

ファミ通の「十三機兵防衛圏」特集が尖ってる

 今週のファミ通は「十三機兵防衛圏」の特集である。そんなバカな。

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 そもそも記事になるタイミングが謎である。発売から3か月、中途半端に古いし、最近売れ始めたという訳でもなかろう。DLCや続編が発表されたりはしないし、アニメ化などの情報もない。
 しかし、特集の熱量は非常に高く、人気スマホゲームの〇周年記事のような、読者アンケート調査まで行われている。
 半分以上が、ゲームをクリアした人向けの内容というのも驚きだ。10万本をようやく超えた程度の売れ行きのゲームで、クリアしたユーザーがどれほどいるのだろう。浅く広くという印象のファミ通にしては、ターゲットが絞られ過ぎている。

 神谷社長による解説の徹底ぶりは、もはやファンブックの域。数少ないターゲットの一人として、私はとても楽しませてもらったが、新発売のゲームを差し置いてなぜ今この特集なのか、やっぱり謎としか言いようがない。
posted by Dr.K at 23:52| Comment(0) | 馬鹿は黙ってろ! | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月07日

英雄は嘘がお好き

 それでは一席。
 時は19世紀のフランス、ボーグランのお屋敷では、次女のポリーヌの婚約が決まり、朝からにぎやかでございます。そこへお相手のヌヴィル大尉、真っ赤な軍服に白馬で颯爽と参上。まるでおとぎ話ですな。一方、ボーグランの長女であるエリザベットはにこりともしません。どうも大尉を信用してないご様子。
 婚約の挨拶もそこそこに、軍の伝令が飛んできて、大尉は戦場へ連れていかれます。毎日手紙を書くよ、と約束しますが、これが全く来ない。エリザベットによれば、女たらしのロクデナシ、なんだそうで。思い込みの激しいポリーヌは、すっかり落ち込んで病に臥せってしまいます。
 エリザベットは一計を案じ、大尉からの手紙を創作。たちまち元気になるポリーヌに気を良くし、手紙の内容はどんどん壮大な武勇伝に。エリザベットは大阪人の素質ありまんな、調子に乗って話が盛り盛りになるあたりが。で、ついには大尉に名誉の戦死を遂げさせてしまい、村に記念碑まで建つ始末。
 ところがどっこい、大尉は生きとった。しかもみすぼらしい脱走兵になっているではありまへんか。

(ほな、ここからはネタバレでっせ)

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posted by Dr.K at 17:19| Comment(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月06日

アサイ「木根さんの1人でキネマ」7巻

kinesan7.jpg いかん。これはいかんですよ。
 最初の話からネタ切れ感全開じゃないですか。過去のエピソードを蒸し返し出したら、連載ももう終盤ですよ。次の話もいかんですよ。キャラクターを集めてわいわいやり出して。これのどこが「1人でキネマ」なんですか。
 などと文句を言っていたら、最後に「ゴジラ」が控えていました。久しぶりの傑作です。木根さんは映画を語らなければなりませんが、やはり映画館も語らないといけない。半生をかけた話がコンパクトにまとまっています。
 そろそろ連載終了かと思いましたが、まだ気が早かったようです。よかろう、続けたまえ(何様)
posted by Dr.K at 23:16| Comment(0) | 手塚治虫 変容と異形 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月05日

プレーム兄貴、王になる

 コロナウイルス対策で、テーマパークもスポーツもライブも何もかも中止! 世間の自粛ムードにうんざりしてきたので、映画館へGO。

 「プレーム兄貴」は、歌って踊ってハッピーエンドというコテコテのインド映画で、色々と憂さが晴れる。大変よろしい。主演のサルマン・カーンは、「バジュランギおじさん」の時とよく似たキャラを演じており、寅さんのような安心感。王位継承が間近のヴィジャイ王子(サルマン・カーン)が命を狙われ、たまたま似ていた貧乏役者のプレーム(こっちもサルマン・カーン)が、替え玉を頼まれるという、どこかで聞いたような話だ(笑)
 インドは、古いものと新しいものとが入り乱れるのがすごい。王族や宮殿が出てくるが、あくまで現代の話であり、クラシックな馬車の中でスマホを使うシーンがあったりする。一番シュールだったのはサッカーのシーン。プレームは、王子の妹の気を引くために、スピーチの最中にいきなりサッカーをやろうと言い始める。なぜかパンジャーブ地方の夫婦(?)が、真っ先にノッてくるのだが、浦和のレッズファンみたいなものなのだろうか。ここで歌と踊りに突入するが、民族衣装の女性がボールを蹴るだけでもおかしいのに、少林サッカーのごとき演出まで追加されるのでわけが分からない。
 ストーリーは、笑いだけでなく、恋愛あり、アクションありと、インドお得意の全部盛り。とにかくプレームがいい奴過ぎるので、ハッピー過ぎのエンドもまあいいかと思ってしまう。気になった点としては、ところどころ、場面の切り替えが乱暴なこと。日本で上演するにあたって、一部カットにでもなっているのだろうか。

 こういうタイミングだからこそ、楽しいだけの作品の大切さを実感する。

ハゲの変装力 10
王女の美しさ 9
主役のカリスマ 8
個人的総合 7
posted by Dr.K at 22:32| Comment(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする