サトミは、科学者の母と暮らしている高校生。ある日、クラスにシオンが転校してきます。サトミを幸せにすると宣言し、突然歌いだす彼女。シオンは、サトミの母が開発したロボットだったのです。
吉浦監督のアニメは、「
サカサマのパテマ」以来なのですが、
今作も掘り出し物ですね! ちょっと懐かしい感じのストーリーですが、感動できる仕掛けもあって非常に好みです。ところが、知名度のないオリジナル新作ということで、心配になるくらいお客が入っていません。あっさり上映終了となる可能性が高いので、
早めに劇場でご覧になることをお勧めします。
●絶妙なSF設定
舞台は田舎ですが、星間(ほしま)という最先端の大企業が居座っています。地域全体が、ハイテク機器の実証実験に使われている感じでしょうか。サトミ宅は昭和の住まいという感じですが、家電はことごとく音声制御のAI機器となっていて面白い。田園風景も、ロボットが田植えをし、メガソーラーらしき発電施設が並ぶという、泥臭いリアリティがいい感じです。授業はPCやタブレットではなく、黒板とチョークがハイテク化された機材で行われており、意表を突かれます。シオンの中身がまんまサーバーPCで、未来感ゼロなのもおかしいです。
●素晴らしい声優陣
シオンは見た目こそ人間ですが、実際はできたてのロボットなのでセリフは不自然です。これを土屋太鳳が計算された棒演技で実現しており、同時に見事な歌も披露しています。天才プログラマー、トウマ役の工藤阿須加も違和感なし。
●「竜とそばかすの姫」との比較
歌が重視され、ディズニーアニメにオマージュを捧げているという点で、本作は「竜とそばかすの姫」と共通しています。しかし、「竜」が「アナと雪の女王」のデザイナーを起用するなど、最近のディズニー映画を意識しているのに対し、「アイ」に出てくる「ムーンプリンセス」は、もっと古臭いディズニープリンセスのビジュアルになっているのが面白いです。
●ホラースレスレの演出
AIが自我を持つと、やがて人類を脅かすというのは、よくある話です。シオンもまた、三太夫をけしかける場面や、トウマをロックオンする場面などで、一瞬そうしたホラーを感じさせます。意図的なミスリードなのかわかりませんが、本筋以外でけっこうハラハラさせられる作りでした。
●あくまで学園青春もの
未来への見通しが暗いご時世のせいか、SF要素のある物語は、ともすると難解かつ深刻になりがちです。「アイ」の良いところは、あくまで高校生の物語にとどめ、明るくまとめているところにあります。友情や恋愛の描き方がとてつもなくベタなのですが、邪心のないロボットが関わってのことなので納得できるという仕組みがうまいです。こういう未来ならば歓迎です。
意外性 7
世界観 9
ポジティブ度 9
個人的総合 9