2022年02月27日

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

 無念、後を頼む。
 ただでさえ、面白いのはストーリーではなく画面作り、という作風な上に、欧米のハイカルチャーを笑う内容のため、全然追いつけなかった。私自身が、かつてライターを目指し、大学生の頃は雑誌編集の真似事などもしていたので、もう少し共感できるかと思ったのだが。

 物語は、ある雑誌の編集長が急死し、遺言に従って廃刊が決定したところから始まる。その架空の総合誌「フレンチ・ディスパッチ」、最終号の内容がオムニバス形式で映像化されるという、なんともややこしい作品だ。
 ライターの文章はナレーションとして流れ、映像の中では普通に会話もあるので、字幕の字数が多い。さらに、英語とフランス語が入り乱れているらしく、英語版観客向けの英語字幕にさらに日本語字幕がかぶさるという場面もあって、ごちゃごちゃだ。ただでさえ凝りに凝った画面だというのに、とても見切れない。
 雑誌らしさを映画にするため、他では見られない効果が頻出。例えば、わざと平面的に演出された構図。比率がころころ変わるのは、レイアウトの変化を表したものだろうか。回想でもないのにモノクロになる映像は、誌面のモノクロページをイメージしているのか。時間が止まった映像では、デジタル編集を使わず、役者に止まった演技を強いているらしい場面があっておかしい。突如としてアニメになるのは、雑誌にはコミックのページもある、ということなのだろう。
 ライターが変われば文章も変わる。そのことを表しているらしい演出もユニークだ。「確固たる名作」では、ライターはイベント会場でプレゼンをしているかのような姿で登場。講義のようで蘊蓄も豊富だ。「宣言書の改定」のライターは、現地取材にこだわる人なのだろう。だからといって、取材対象である学生運動家に惚れられたり、宣言書の文章自体に手を加えたりはどうかと思うが。「警察署長の食事室」のライターは、尊大な人なのかもしれない。インタビュー番組の出演者としてふんぞり返っている。

 紙の雑誌という失われつつある文化への郷愁が、ユニークに表現されている一方、物語としての主張や明確さがないため、大衆向けではない。それでも映画館は満席に近く、パンフレットも軒並み売り切れと言うあたり、ウェス・アンダーソン監督のファンはなかなか頼もしい。

オリジナリティ 10
ノスタルジー 9
ストーリー 3
個人的総合 4
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2022年02月26日

「COGEN: 大鳥こはくと刻の剣」のクリアを断念!

 巷では、話題の新作「エルデンリング」が、美しいグラフィックにつられたライトユーザーを絶望に叩き込んでいると聞くが、私はそれより一ヵ月も先に、「COGEN」に打ちのめされている。

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 「COGEN」は2Dアクションゲーム。遠隔攻撃はなく剣のみ、パワーアップ要素なし、HPはなく一撃死、というストイックなゲームだ。SFの世界観で敵がロボットなので、ロックマンシリーズを思い浮かべる人が多そうだが、その実態は「魔界村」に近い
 下手っぴゲーマーの私は、いつもならこんなゲームは絶対やらないのだが、わざわざ買ったのには理由がある。このゲームには、時間を巻き戻せるというシステムがあり、死んでもその場でやり直すことが可能なのだ。似たシステムを売りにしていた「プリンス・オブ・ペルシャ 時間の砂」が楽しめたということもあり、これなら私もプレイできるのでは、と思ってしまったのが甘かった
 このゲームの巻き戻しは、非常にテクニカル。ゲージ1本につき1秒、3本を消費すれば3秒の時間を巻き戻せる。そして、決まった瞬間に戻るのではなく、ボタン長押しで任意のタイミングを選ぶことが可能。一見便利なようだが、いいタイミングに戻すにはプレイヤーの力量がいるのだ。さらに、巻き戻しの際にはわずかな無敵時間と、足場がなくとも一回ジャンプできるという効果があるので、それを活用すると難局を打開出来たりもする…というよりそれを活用することが前提になっている感じだ。

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 あまりに難しいので、攻略サイトを見てみたが、わかったところで上手に操作できないので進めない。掲示板ものぞいてみたが、話題になっているのは2周目の難しさについてで、私のような低レベルのプレイヤーは息もしていない。インティ・クリエイツの高難度アクションゲームをやりこなすような猛者たちが、ユーザーの中心であるらしい。こりゃかなわん。同じ場所を何十回もプレイするような時間も根気もないので、これにて終了。
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2022年02月25日

アンチャーテッド

 予告を見る限り、キャストが全然似ていない。ゲームをすべてプレイした身としては、大いにケチをつけてやろうと観に行ったが、予想外にゲームを踏襲した映画になっていて、あっさり手のひらを返した。

 吹替えの場合、最初のセリフが「やべやべやべ」。「アンチャーテッド」らしさあふれる開幕である。大ピンチから始まり、そこに至る顛末が後から語られる構成も、ゲームでお馴染みのもの。次々に、さしたる迷いもなく、場当たり的に謎を解いていく感じがゲームそっくり。ジャンプとつかまりを強調したアクションシーンは、コントローラーの感触を思い出すほど。離れたメンバーが協力して謎を解くギミックも、とてもゲームっぽい。止めに、ゲーム版ネイトの俳優もカメオ出演ときている。設定もストーリーも、映画オリジナルのものなのだが、ゲームのエッセンスをふんだんに盛り込んでいるので、安心して見ていられる。
 一方、過去の冒険映画のオマージュと思しき演出も多い。例えばバルセロナ、秘密の通路を通り抜けた先が営業中のクラブで拍子抜け、というあたりは「インディ・ジョーンズ」を思わせる。洞窟に隠された海賊船は「グーニーズ」か。最新の映画なのだが、なつかしい感じになっている。
 もちろん再現してばかりではなく、新しいアイデアもちりばめられている。特に、船を飛ばしての空中アクションは新しく、将来ゲームに逆輸入しても面白そう、と思った。

 エンドロール後、続編の可能性を匂わせるとともに、ゲームの設定に寄せていく演出はズルい。こういう何も考えずに楽しめる映画は大好きだ。先に観た「フレンチ・ディスパッチ」がお高くとまった難解映画だったせいか、つい評価が高くなってしまった。

原作リスペクト 9
続編可能性 8
ドラマの深み 2
個人的総合 8
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2022年02月21日

教員間でバカ受け! 吉沢秀雄『「気持ちいい」から考えるゲームアイデア講座』

gameideakouza.jpg 私は専門学校で長年ゲーム企画を教えていますが、教員間で話題騒然となっているのがこの新刊です。

 吉沢秀雄の前著「ゲームプランナー集中講座」と共通する部分も多いのですが、特筆すべきは最後の章。学生が陥りがちなミスの含まれた企画書を載せ、それを解説してみせるという事例集になっているのです。この事例がどれもこれもとことんリアルで、学校で見たことのあるものばかり! それらの誤りを明快に斬って見せるのが面白いです。吉沢さんが最近、大学の教授に就任したので、学生の提出物を見て思うところを書いたのでしょうね。

 ゲーム企画書のサンプルなんてのは、どこの学校でも用意しているとは思いますが、学生によくあるのは、見かけだけ上手に真似て、中身がちっとも考えられていない、というケース。考え方を教える難しさを日々痛感しています。だからこそ、安易に書き方をうたわないこの本は価値がある。企画志望の方には、大いにお勧めできる一冊です。
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2022年02月20日

ゴーストバスターズ アフターライフ

 バカバカしいコメディであり、痛快なアクションでもあった過去作とは一線を画する。「ゴーストバスターズ」なのに、しんみりしてしまう。

●世代交代
 物語は、田舎の農場で、かつてのゴーストバスターズの一員だったイゴン博士が、何やら凶悪なゴーストに追い詰められるシーンから始まる。
 タイトルを挟んで現在。シングルマザーのキャリーの一家が、家賃の滞納でアパートを追い出される。息子のトレヴァーはややマザコン気味。娘のフィービーは科学や機械に強い天才少女で、この娘が本編の主人公となる。一家の引っ越し先は、イゴン博士の屋敷。つまり、フィービーたちは博士の孫にあたるわけだが、キャリーは変人科学者の父を疎んでおり、フィービーたちは祖父の事を何も知らされずに育ったようだ。
 主役が孫の代ということで、主要キャラが小中学生まで一気に若返る。そのため、さえないオッサンが活躍していた「ゴーストバスターズ」よりも、「グーニーズ」やら「E.T.」やらといった80年代の少年少女の冒険映画に雰囲気が近い。その後、屋敷から見つかる装備で、だんだん「ゴーストバスターズ」になっていく過程も楽しい。

(以下にネタバレを含む)

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2022年02月19日

「鬼滅の刃 遊郭編」11 何度生まれ変わっても

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 アニメ2期の最終回は、時間延長の上にCMなしという異例の放送に。こんなことが許されるのは「鬼滅」くらいのものだろう。
 私はいまだにマンガを読んでいない。それによって、「遊郭編」をより楽しめたという自信がある。何しろ先のことを知らないので、鬼の兄が出たと言っては驚き、宇髄が死ぬんじゃないかと心配し、毎週大いに振り回された。

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 「遊郭編」担当(?)の柱である宇髄は、「派手」が口癖である。だからという訳でもあるまいが、吉原の夜景からオープニングから戦闘エフェクトに至るまですべてがド派手。テレビアニメにしておくにはもったいないクオリティだ。
 「無限列車編」は、劇場公開の後、テレビ版に再編集されて放送された。ならばその逆も可能なはずで、「遊郭編」を劇場にかけ、来るアニメ3期までの間をつなぐというのはどうか。あの戦闘を大スクリーンで見たい、という需要はけっこうありそうに思えるのだが。

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2022年02月13日

若い人お断り:ニンテンドーダイレクト2.10


 糸井重里も喜ぶ配信開始。私もさっそくプレイしています。
 さて、2/10のニンテンドーダイレクトで発表されたSwitchの今後のラインアップ、端的に言って異常でした。「スプラトゥーン3」「ゼノブレイド3」といった新作ももちろんあるのですが、それ以外はリメイクやリマスターの嵐。喜んでいるのはオッサンばかりではないでしょうか。オープンワールドで技術を誇示するような海外ゲーム群はPS陣営に任せ、Switchは国産レトロ風ゲームに特化して住み分けをはかろうとでも言うのでしょうか。
 かく言う私も立派なオッサンなので、以下、特に琴線に触れたゲームにコメントしたいと思います。

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posted by Dr.K at 17:31| Comment(0) | ゲーム百鬼夜行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年02月11日

ドライブ・マイ・カー

 カンヌでの受賞に続いて、アカデミー賞でも4部門でノミネート。ならば観るか、というミーハーは私だけではなかったようで、再上映となった劇場は満員だった。

 感情が削がれた、異様な映画だ。
 開幕、ベッドの上で妻の音(おと)が、唐突にストーリーを語り始める。その声は淡々としており、独り言のようでもあり朗読のようでもある。夫の悠介は驚くでもなくそれを聞き、車で出勤の道すがら、話の続きを語ってみせる。音はテレビドラマの脚本家で、メモをとって次のアイデアとして使うつもりらしい。
 一方、悠介は劇の演出家、そして自ら舞台に立つ役者。車の中で、音が吹き込んだ台本を聞いてセリフの練習をするのが日課だ。ところが、この録音が妙に平坦なのだ。一般に、舞台劇では客席が遠いことを考慮し、オーバーな仕草や抑揚の大げさなセリフで伝えるものだと思っていたので奇妙に感じる。
 音の急死から二年、新しい舞台を依頼された悠介が、〈本読み〉の稽古を始めると、その風景はますます奇妙になる。役者は感情をこめない棒読みで脚本を読み進め、つい力をこめてしまった高槻は注意されてしまうのだ。物語が進むと、これが悠介の意図にもとづく練習法だとわかる。
 悠介の舞台は、ベケットやチェーホフといった古典を、多国籍の役者が多言語で演じるという前衛的なもの。そのため、外国人による不自然な日本語が飛び交うのだが、最も不自然なのがイベント主催者で、セリフに全く感情がないのだ。この人が、素人どころか、普段はチェーホフの舞台を演じているベテラン役者だと知り、棒読みは意図的なものと察した。
 そして何より、もう一人の主人公である、運転手のみさきもなかなか感情を見せない。運転の腕は卓抜だが、言葉も固く、態度もそっけない。
 映画全体が棒読みに包まれており、だからこそわずかな感情の動きに目が留まる。そういう不思議な効果が生まれているように思う。この機微を評価したのだとしたら、海外の映画賞審査員は大したものだ。

インテリ度 10
グローバル度 10
アート度 8
個人的総合 5
posted by Dr.K at 23:50| Comment(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年02月05日

ドラマ「ゴシップ」に先んじられる古塔がダサい

 ヒット曲「夜に駆ける」のジャケット画などで知られる、イラストレーターの古塔つみに、多数のトレパクが発覚。画集が出荷停止になる事態に発展しました。しかも、表に出るときの若い女性は替え玉で、実際はけっこうな歳のオッサンだというじゃありませんか。まさに古塔詰み、なんつって。

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posted by Dr.K at 20:34| Comment(0) | 馬鹿は黙ってろ! | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年02月02日

「平家物語」第三話 鹿ケ谷の陰謀

 今期は「平家物語」を観ている。「けいおん!」「聲の形」など、京都アニメーションの監督として知られる山田尚子が、初めて他社のスタッフと作った注目すべきアニメだ。大河ドラマが源氏方の話ということもあり、合戦の両サイドを並行して見られるというのも、なかなか良いタイミングと言える。

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 なんというか、〈強い〉アニメだ。削ぎ落された美しさ、とでも言おうか。
 歴史ものにありがちなナレーションや解説がない。びわが、古典そのままに歌う場面でも、現代語訳が示されたりはしない。今回の物語はかの有名な「鹿ケ谷の陰謀」だが、瓶子(へいし)を説明することもない。
 今どき、大河ドラマでさえも説明だらけであるというのに、このアニメは視聴者の教養を信じて余計なことを言わない。おかげで、映画並みの洗練された無駄のない映像が楽しめる。こちらも作り手を信じ、今後に期待していきたい。
posted by Dr.K at 23:47| Comment(0) | 手塚治虫 変容と異形 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする