無念、後を頼む。
ただでさえ、面白いのはストーリーではなく画面作り、という作風な上に、欧米のハイカルチャーを笑う内容のため、全然追いつけなかった。私自身が、かつてライターを目指し、大学生の頃は雑誌編集の真似事などもしていたので、もう少し共感できるかと思ったのだが。
物語は、ある雑誌の編集長が急死し、遺言に従って廃刊が決定したところから始まる。その架空の総合誌「フレンチ・ディスパッチ」、最終号の内容がオムニバス形式で映像化されるという、なんともややこしい作品だ。
ライターの文章はナレーションとして流れ、映像の中では普通に会話もあるので、字幕の字数が多い。さらに、英語とフランス語が入り乱れているらしく、英語版観客向けの英語字幕にさらに日本語字幕がかぶさるという場面もあって、ごちゃごちゃだ。ただでさえ凝りに凝った画面だというのに、とても見切れない。
雑誌らしさを映画にするため、他では見られない効果が頻出。例えば、わざと平面的に演出された構図。比率がころころ変わるのは、レイアウトの変化を表したものだろうか。回想でもないのにモノクロになる映像は、誌面のモノクロページをイメージしているのか。時間が止まった映像では、デジタル編集を使わず、役者に止まった演技を強いているらしい場面があっておかしい。突如としてアニメになるのは、雑誌にはコミックのページもある、ということなのだろう。
ライターが変われば文章も変わる。そのことを表しているらしい演出もユニークだ。「確固たる名作」では、ライターはイベント会場でプレゼンをしているかのような姿で登場。講義のようで蘊蓄も豊富だ。「宣言書の改定」のライターは、現地取材にこだわる人なのだろう。だからといって、取材対象である学生運動家に惚れられたり、宣言書の文章自体に手を加えたりはどうかと思うが。「警察署長の食事室」のライターは、尊大な人なのかもしれない。インタビュー番組の出演者としてふんぞり返っている。
紙の雑誌という失われつつある文化への郷愁が、ユニークに表現されている一方、物語としての主張や明確さがないため、大衆向けではない。それでも映画館は満席に近く、パンフレットも軒並み売り切れと言うあたり、ウェス・アンダーソン監督のファンはなかなか頼もしい。
オリジナリティ 10
ノスタルジー 9
ストーリー 3
個人的総合 4