2023年03月31日

フェイブルマンズ

 非常に完成度が高く、同時に期待外れの映画だった。

 スピルバーグ監督の自伝的な物語、と聞いて、私が思い浮かべたのが「ボヘミアン・ラプソディ」だった。「ボヘミアン・ラプソディ」は、フレディ・マーキュリーの人生をたどる映画だが、合間で有名な楽曲が生まれた背景が語られるのが面白かった。そこで、「フェイブルマンズ」では、色々な映画の制作過程が見られるかも、と期待したのだが、全然そういう映画じゃなかったのだ。
 サミーは、家族で初めて観た映画に衝撃を受ける。列車事故のシーンにすっかり魅入られ、鉄道模型で繰り返し再現を試みる。これが、将来「激突!」につながってくるのか? また別の日、サミーが竜巻を目撃すると、母はわざわざその近くまで車を走らせて観に行く。これは「ツイスター」につながるのだろうか。私の期待に近かったのは、これら序盤のエピソードだけ。
 物語は、少年サミー以上に、その家族を念入りに描写していく。芸術家肌で、映画作りにのめりこんでいく息子を応援する母親。天才的な技術者で、映画作りに理解を示さない父親。両親から受け継いだ才覚と、めぐまれた環境によって、サミーの作品は大きく花開く。

注:以下にネタバレを含む

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2023年03月26日

「異世界おじさん」第13話 みんなのおかげだ、ありがとう

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 昨年末に終わる予定だったこのアニメ、あと一回というところでまたまた延期になり、今月ようやく最終回を迎えた。忘れたころに一回だけ放送、という何とも納まりの悪い形になったが、配信のみとかDVDのみ収録とかにならなかったことはありがたい。
 内容は、いつも通りと言えばいつも通りなのだが、待たせておいてこれか、という感じの最終回だった。作中のたかふみは、ようやくまともな異世界バトルが見られる! と感激した様子だったが、それはこちらにとっては、陳腐なアニメに戻ったことを意味する。そして、「異世界おじさん」に残された興味は、おじさんがどうやって現世に戻ったかであり、エルフたちとの別れがどんなだったかという点に尽きる。しかし、マンガが完結していないので、それを明かすわけにはいかず、続くような続かないような釈然としない終わり方でごまかすしかない。
 アニメとしてのデキは悪くないが、何しろ延期に次ぐ延期で、ビジネス的にかなりヤバそうな気配がするので、二期実現の可能性は低そうな気がする。
 最終カットはご覧の通りゲーム機で締めたが、セガにこだわる必要性があまりないストーリーで、この点でも中途半端だったなあ。
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2023年03月21日

冬ドラマ最終回の通信簿2023

 面白い趣向のドラマが多かった印象の今期。大河ドラマ「どうする家康」がどうにもしょうもなく、男女逆転でキワモノのはずの「大奥」の方がちゃんと時代劇しているのはどうしたものでしょうか。

「女神の教室」:意外
 直前の回が、これまでの回想を含む卒業式の話で、完全に最終回ムードでした。では本当の最終回は何をやるのか。なんと、卒業生が社会に出て壁にぶちあたるという、その後を描いた話になっていました。ちょっと一回に収めるには窮屈なエピソードでしたが、柊木先生の力を借りずに進んでいく、教え子の成長した姿には、結末としての説得力があり、悪くなかったです。

「Get Ready!」:悪い
 「ブラック・ジャック」をチームにスケールアップしたようなこのドラマ、解散したチームが再結成して終わりました。警察に貸しを作ってお咎めなしとなるわけですが、だったらその国際的な仕事を見せろよ、と言いたくなります。スペシャルや続編の可能性を残すための未練が見え見えで、美しくありません。また、病院の医者たち、占い師、警察の面々など、レギュラーなのに何もしていないキャラが多すぎます。

「ブラッシュアップライフ」:良い
 バカリズムらしい、ゆるいノリから一転、最後だけはドラマらしいスリルがありました。死の重みがよくわからん物語なので、全滅もあるかと思ってたんですよね。事件が回避され、ゆるい日常に帰っていくエピローグは、なんとも愛おしく感慨深かったです。それにしても、女性4人が40を迎えて誰一人結婚しないという設定は、なかなか思い切りましたね。

「大奥」:感無量
 重厚な物語とキャストの熱演で、最後までダレませんでした。ただ感動的なだけでなく、藤波(片岡愛之助)が片岡仁左衛門を激賞したり、現代の東京を幻視する吉宗がただの冨永愛だったりと、遊び心の感じられる演出が目立ちました。シーズン2の制作が決定しており、今後も任せろという自信と余裕の表れでしょうか。最高の出来だったので、続編も楽しみです。
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2023年03月19日

響け! 情熱のムリダンガム その2

 間違ってムリガンダムと覚えた人、正直に手を挙げなさい。

●これぞ青春
 主人公のピーターが、ムリダンガム(インドの伝統音楽に使われる太鼓)にほれ込み、一人前の奏者になるまでを描くこの映画。
 まず驚くのが、ピーターの無軌道ぶり。彼は映画スターのヴィジャイの大ファンで、新作が公開されると知るや、会計士の試験をすっぽかしてしまう。看護婦のサラに惚れると、ドイツ語教室にまで押し掛ける。ムリダンガム奏者のヴェンブに強引に弟子入りし、ようやくストイックに頑張るかと思ったら、トラブルで破門され、半グレになったりもする。会うたびに全然違う様子になっているので、サラも目を白黒している。
 何をしたらいいかわからず、後先考えない行動に走る。これって青春そのものじゃないか。
 ピーターの父は太鼓職人で、これは被差別階級が就く職業だ。故に、ヴェンブは初め、身分を理由に弟子入りを断る。インド映画でカーストの問題が描かれることは珍しくないが、ピーターはまだ学生なせいか、世間知らずなせいか、父の故郷を訪れる場面まで、その差別に気付かない。この無知のおかげで、外国の観客である私たちにも内容が共感しやすくなっている。

●これぞ師匠
 私が歳をとったせいか、ヴェンブのキャラクターが魅力的に感じた。
 ヴェンブは神に捧げる伝統音楽を守りたい。故に、女性歌手の伴奏はせず、テレビへの出演も断ってきた。ピーターの弟子入りも、身分を理由に断るが、一方でその才能は評価し、彼にチャンスを与える。兄弟子がピーターに嫌がらせをすると、きちんと咎めるなど、ただ厳しいのではなく、音楽にいつも真摯なのが素晴らしい。師匠が、権力のある敵としてピーターの前に立ちはだかると思い込んでいたので、意外だった。
 ピーターは、クライマックスで伝統音楽の枠をはずれたオリジナルな演奏をする。叱られる覚悟のピーターだったが、ヴェンブはその演奏を認めた。この師匠には、最後まで新しい風を受け入れる度量があった。私もそうありたい、と思わせる振舞いだった。

青春度 8
音楽性 8
パンフレット 10
個人的総合 8

他の方の注目すべき記事
アジア映画巡礼:映画祭のときの模様
オタクの迷宮:「RRR」より熱い?!

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2023年03月18日

「ウマ娘」2周年 イベントの章

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 ストーリーイベント全開放のためには、少なくとも2回育成を済ませなければならぬ。そこで、「グランドマスターズ」をキタサンブラックでプレイ。こいつは強いな。すべてのレースで1位を獲れた上に、シナリオの都合で大きなレースにたくさん出るため、ファン数もランクも過去最高を記録した。

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 さて、2周年記念のストーリーイベント「Leap into a New World!」は、トレセン学園が新しいパンフレットを作るという話。撮影する素材を探して、様々なウマ娘の短いエピソードが語られる。そのため、全体を通しての盛り上がり、という観点ではイマイチである。
 しかし、新しく追加されるウマ娘たちのお披露目の場として機能しており、今後に期待をつないでいるのがうまい。特に、メジロラモーヌはインパクトがあった。今までいなかったタイプのキャラで、育成シナリオが作られたら、かなりひねったものになりそう、と思わせる。
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2023年03月13日

響け! 情熱のムリダンガム その1

 マイナーなインド映画は、観に行くだけでもちょっとした冒険だ。

 昨年「RRR」が評判になり、これが初めてのインド映画体験という人がけっこういたらしい。つい先日、ネットで「他にどんなインド映画がお勧めですか?」という質問を見かけた。回答として、「バーフバリ」「バジュランギおじさん」「きっと、うまくいく」といった納得のタイトルが並ぶ中、突如として「ムリダンガム」が挙がっていたのである。
 何だそれ? 聞いたことないぞ。調べてみると、数年前に東京国際映画祭でお披露目されたものの、日本での公開が見送られていた一本で、熱烈なファンであるインド料理店の店主が自ら配給権を獲得して、ようやく公開になったものらしい。こんなエピソードがある作品なら、きっと面白いに違いない。

 タイミングよく、大阪では「シネ・ヌーヴォ」でアンコール上映がやっていたので観に行く。この映画館を訪れるのは、数年前「バーフバリ」の2作連続上映を観に来て以来である。
 今回、2階の「シネ・ヌーヴォX」に初めて入場したが、ミニシアターどころではない、屋根裏のような狭い部屋に驚く。椅子もオフィスの応接室みたいで、一種の試写室なのかもしれない。少人数で観る映画は、作品との距離感が近く感じられ、マイナー映画がますます味わい深く感じられた。

 肝心の内容については次回とする。

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2023年03月12日

「進撃の巨人 」The Final Season 完結編(前編)

 異例の放送形態で届けられた完結編。単発のスペシャル番組となったこの回は、今まで付いていた通し番号もなく、オープニングもなく、アイキャッチもない。1時間にわたる映像は凄まじいクオリティで、秋に予定されている後編が完成したら、劇場にかけてもいいんじゃないかとさえ思える。

 内容は、マンガの33巻ほぼそのまま。今までは、分かりやすく整理する目的などで、削ったり順序を入れ替えたりといった変更がけっこうあったように思うが、今回は驚くほど忠実だ。
 だからと言って、アニメ化する意味がない、などということは全くなく、映像になる事で様々な場面で説得力が増している。例えば、地ならしの描写。マンガでは、巨人に踏まれさえしなければ、ワンチャン生き残れそうな感じがあったが、アニメになったことで、熱波もあるので絶望的ということがわかった。また、ハンジの最後を描くシーン。マンガでは、たった一人で巨人の群れに立ち向かって意味があるのか、と若干の疑問が起こったが、アニメでは、戦略的に狙った巨人を足止めしていることがわかった。何より、ハンジの強さが伝わったのが嬉しい。

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 「進撃の巨人」は、重要なキャラでもあっさり死なせる冷酷さが持ち味。しかし、マンガではハンジだけがあの世から迎えられるセンチメンタルな描写をしてもらっている。アニメでもその特別扱いは引き継がれた。後ろ姿だとサシャと紛らわしいな
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2023年03月09日

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

 なぜまともな邦題を付けないんだ! と思うけど、本編がEverythingの章、Everyoneの章、All at onceの章に分かれているので仕方なかったのかな。

●概要
 エヴリンは、中国から来た移民で、アメリカの片隅でコインランドリーを営んでいる。確定申告が不調に終わったため、全宇宙を巻き込んだ戦いが始まる。

●好意的な解釈
 奇抜な設定を奇抜な映像で表現しており、オリジナリティが高いことを何より評価。
 エヴリンは、他の宇宙から来た夫の要請で、戦いに身を投じる。マルチバースというと、他の宇宙から別の自分が現れる、という設定をよく見る。しかし、本作の〈バース・ジャンプ〉は、他の宇宙の自分が持つスキルを借りる、という方法になっている。次々に技を獲得し、最強の戦士となったエヴリンだが、最終的には平和的解決を選び、夫や娘との和解を果たす。わけのわからない異世界バトルが、現実的な家族の問題に収斂することで、共感性のある物語として着地する。
 敵であるジョブ・トゥパキは、すべての宇宙からエヴリンを探して追ってくる。見方を変えれば、エヴリンから生まれたかったゆえの行動ともとれ、家族の物語としてうまい伏線になっている。

●意地の悪い解釈
 エヴリンは移民ゆえに英語が不十分で、確定申告ができない。娘はレズをカミング・アウトし、ガールフレンドを連れてくるが、昔の価値観を持つ父にはとても紹介できない。移民問題やら、性的少数者やらに目配りし、いい映画のふりをしているが、騙されてはいけない。
 結局のところ、ただハチャメチャなアクションを撮りたかったのだと思う。アクション映画がやりがちな、かっこいいキャラやかっこいい状況を意図的に廃し、シュールなカンフーバトルがスクリーンを彩る。
 そして、〈バース・ジャンプ〉の条件となる奇妙な行動や、指がソーセージになる世界、岩が会話する世界など、作り手の悪ふざけがこれでもかと披露される。
 アカデミー賞では多くの部門にノミネートされたが、ぜひ作品賞を獲ってほしい。ケツの穴にトロフィーを刺した男がフルチンで戦うような映画が受賞したなら快挙である。

キャスティング 9
斬新度 9
編集技術 10
個人的総合 9
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2023年03月05日

「ウマ娘」2周年 育成の章

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 「ウマ娘」が2周年を迎え、予想通り育成に新シナリオが追加された。その名も「グランドマスターズ」。とりあえずオグリキャップでサクッと優勝しておいたが、シナリオのせいもあって、ライブの映像がいつになく神々しい(笑)

gm01.jpg 新システムを活用し、いかに強くウマ娘を育てるか。ヘビーユーザーならそこに注目するのが当然だが、あいにくと私はそこに興味がない。むしろシナリオが気になった。
 「グランドマスターズ」は、プレイヤー・樫本・桐生院、三人のトレーナーが、3女神を模したAIの助けを借りて、ウマ娘を育てるストーリーとなっている。今まで、異世界もののイベントのために、無理矢理使われていたVR装置が、ついに育成シナリオに登場。VR空間の中で、3女神とのトレーニングが行われるという設定だ。
 トレーナーたちは、伝説の女神の指示に従って着々とウマ娘を鍛えていく。AIにべったり依存していて気持ち悪い。しかしシナリオ中盤、樫本や桐生院のトレーニングがうまくいかなくなる描写がある。ここで、AI頼みのトレーニングから脱却し、それぞれ道を見つけて行くのだな、と予想したがそうならず、最後まで女神の指示でうまくいくという話だったので驚いた。
 もともと、ウマ娘の存在自体がファンタジーなのだから、VRだのAIだのというSF設定に頼らず、本当に女神が降臨したことにすれば良かったのでは
 私たち古い世代は、コンピューターと人間が敵対するSFをたくさん見て育ってきたので、このシナリオには居心地の悪さを感じてしまう。しかし、若い人にとっては、絵を生成したり文章を生成したりするAIは、最近はやりのオモチャに過ぎず、そこに敵対心やら恐れやらはなさそうだ。だから、AIの女神に唯々諾々と支配されるシナリオも、特に気にならない…いやいや、それでいいのか人間として
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2023年03月04日

映画 イチケイのカラス

 感心した。またテレビドラマの映画か、とあなどっている観客への対応がよく考えられている。

●スペシャルドラマ
 公開のタイミングで、テレビでスペシャルドラマが放映された。テレビシリーズと映画との間をつなぐエピソードで、決してつまらなくはないのだが、非常に物足りなかった。
 理由は簡単。坂間千鶴(黒木華)の出番がほとんどなかったからだ。「イチケイ」は、入間みちお(竹野内豊)が活躍するだけではダメで、千鶴とのやりとりが面白さの中心になっていたのだと改めて気付かせられた。

●シリアス展開
 さて、映画は、作りが「ガリレオ」に似ている。テレビではコメディの要素が強く、軽い印象があるが、映画になると深刻で重厚な印象に切り替わる、というあたりがそっくりだ。
 千鶴に身の危険が及ぶ、という展開にはかなり驚いた。

●よくある話で終わらせない
 田舎の工場の貨物船と、防衛省肝いりのイージス艦とが衝突事故を起こし、その真相を探るというのが導入部。
 ほとんどの観客が「またか」と思っただろう。企業やら国家権力による隠蔽なんてのは、あまりに使い尽くされている。そこで、多くの映画では、その暴き方に工夫を凝らす。
 ところが、「イチケイ」はそうではなかった。権力が悪、というパターンを捨て、「オリエント急行殺人事件」を彷彿とさせる真相へと舵を切る。その結果、物語は勧善懲悪の爽快感を失い、苦い結末を迎えることになった。
 テレビドラマの映画は、テレビ番組と変わらない、と苦言をもらうことが多いが、「イチケイ」はひねってきた。あなどって観ると痛い目にあうだろう。月本信吾(斉藤巧)がかっこ良すぎるが、そこはまあご愛敬。

メッセージ性 7
意外性 7
続編可能性 3
個人的総合 6
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