2024年02月27日

落下の解剖学

 映画賞を争うようなタイトルは、やはりただ者じゃなかったです。

 小説家サンドラの自宅は、雪山のロッジでした。息子のダニエルが犬の散歩から戻ると、なんと、夫のサミュエルが死んでいます。ロッジから落ちたようですが、夫婦が不仲だったことから、サンドラに殺しの疑いがかかります。ダニエルの証言が鍵となりますが、彼は目が見えず、調査は難航します。
 観客として、どのような立場で見ればいいのか、まずそこで困る映画です。普通なら、主人公ですからサンドラに寄るべきでしょう。ところが、彼女は嫌疑がかかっても全く冷静なんですね。小説家だから客観的に物事を見られるのか、いや、こいつ本当に殺ってるんじゃないか、とそわそわします。

注:以下に結末を含むネタバレあり

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2024年02月25日

松本零士「銀河鉄道999 エターナル編」4巻

999et4.jpg 「ドリームブラックホール」が収録されていると知り、購入。
 「ドリームブラックホール」は、松本零士生誕80年の記念本「無限創造軌道」に掲載された、「銀河鉄道999」最後のエピソードである。中断した旅の続きではなく、メーテルと鉄郎が新しい旅に出る。目的は明示されず、終わりのない無限の旅と表現される。
 まるで、松本零士の遺言、それどころが生前葬のような趣きではないか。
 思えば、「エターナル編」の終盤はエンターテインメントの体を為していなかった。敵対する者が出現するが、鉄郎やメーテルが彼らと戦って倒すようなことはない。敵たちは、星の意思、宇宙の意思によって滅亡させられる。卑しい者には罰が当たる、という仏教の挿話のような話が繰り返されるのだ。そして、キーワードとなる「光も時間も追い越して走る」「遠く時の輪の接する処」といった言葉も、輪廻転生を言い換えたもののように感じられる。
 鉄郎がどのような形で旅を終えても、どこかに不満が残ったことだろう。「銀河鉄道999」は、終わらないことがふさわしい、宇宙時代の経典になったのだ。
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2024年02月24日

未来イカ革命「Splatoon3」 その15

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 先週のフェスは、「ホイップ」派の勝利。実に50%以上が「ホイップ」に投票している。自分で選んでおいて何だが、そこまでとは思わなかった。特に、カスタードはもうちょっと子供に人気かと思ったのだが。偏りの大きな陣容となった結果、フェスマッチが同チーム対戦になる現象は今までもよくあったが、トリカラマッチが同チーム対戦になるのは初めて見たかも。

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 私は、前回から使い始めたスパイガジェット・ソレーラで参戦。3連勝のあと3連敗、というような出入りの激しい戦果になった。私以外で、傘を装備しているプレイヤーにはまず出会わないのだが、今回は敵チームに一人発見。しかもうまいプレイヤーだったようで、使い方の良い学びになった。

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 そして、フェス終了後にいつもの偽水木先生を発見。お変わりないようで何より。
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2024年02月21日

「葬送のフリーレン」第22話 次からは敵同士

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 フリーレンは一級魔法使い試験の一次を通過。次の試験まで、つかのまの休日を過ごすことになった。

 独自のルールで行われる試験は、知略あり、バトルありの見せ場だ。でも、そういうものは他の物語で見慣れている。例えば、「鬼滅の刃」にも入隊試験なんてのがあった。
 休日の挿話となる今回、試験の場では敵としてシビアな戦いに臨んだ他の魔法使いも、別の側面を見せてくれる。非常に味のあるキャラクター表現だ。「フリーレン」は、何もない日にこそ真髄があり、むしろこのための前振りとして試験があるのでは、とさえ思う。

 それにしても、かつて勇者ヒンメルと訪れたという店の、伝統ある料理がまるっきりありふれた現代の食べ物なのはどういうことだ。もう少しファンタジー世界ならではの料理を考案したりはしないのか。そういうのは「ダンジョン飯」に任せているということなのか。
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2024年02月18日

「バルダーズ・ゲート3」 やり直し5回目

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 イラストだといい感じなのにゲーム中のCGが残念、なんて事が昔のゲームではよくあった。ところが「バルダーズ・ゲート3」は逆である。
 特にカーラック。地獄で心臓を機械化されたバーサーカー、という設定もあって、こんなイラストにされると倒すべき敵にしか見えない。

(注:以下にダークアージのストーリーのネタバレあり)

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2024年02月13日

「PLUTO 〜アトムとプルートゥからのバトン〜」展

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 手塚治虫記念館の企画展がそろそろ終わるので、行ってきました。
 Netflixの「PLUTO」、評判いいですね。最初のコーナーで予告編が流れていたのですが、気になったのがスクリーン。ガラスのように透けている素材で、こんな薄くて透明なモニターがついに出来たのか、と驚いてまじまじと見てしまいました。よくよく見ると天井にプロジェクターらしきものがあり、ガラスに投影する仕組みだったようです。

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 今回の企画展は「PLUTO」のアニメ化を記念してのものですが、アニメへの言及はそれほどなく、マンガ「PLUTO」と「鉄腕アトム」の比較が中心となった展示でした。
 中でも印象に残ったのが構想時のラフ画。「PLUTO」を初めて読んだとき、ゲジヒトやアトムがほぼ人間の姿で描かれたことに驚いたものですが、このラフ画では「鉄腕アトム」に忠実なデザインとなっています。なんでも、監修の手塚眞から「もっと浦沢先生らしいキャラクターを」というリクエストがあり、デザインが変わったのだとか。ラフ画のままだったら、「PLUTO」はもっと凡庸な印象のマンガに終わった気がします。

 映像コーナーでは、手塚の実験アニメ「しずく」「タバコと灰」「創世記」をスクリーンで見ることができました。いずれも観たことがなかったものなのでお得でした。
posted by Dr.K at 06:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 手塚治虫 変容と異形 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年02月12日

今だけ無料配信! 「FOAMSTARS」

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 「Splatoon」に似てる! と以前から話題になっていた「フォームスターズ」がリリースされた。驚いたことに、PS+の今月のフリープレイなので、いきなり無料である。どれほど似ているものか、と実際にやってみたところ、意外によくできていた。なお、来月からは通常価格に戻るので、気になる諸氏は今のうちに入手して試すことをお勧めする。
 それでは以下、各モードを触ってみての感想。

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2024年02月10日

千年女優

遥かな過去 遥かな今日 明日さえここに
 先日のリバイバル上映で初めて見た。こういう集中力を要する作品は、劇場で観るに限る
 物語は、伝説の女優千代子へのインタビューという体裁で描かれる。制作会社の社長になった立花が、引退して30年姿を見せなかった千代子の出演をどうにかとりつけたのだ。立花は、長年自分の手元にあった鍵を千代子に返す。千代子は、鍵の由来について、あるいは自分の人生や出演作について語り始める。 
 立花は、千代子の人生をたどるドキュメンタリーを撮るつもりでいる。千代子の話の中に立花やカメラマンが入り込む、ユニークな演出ににやついていると、いつのまにか千代子の出演作と思しき内容に話がすり替わっており、立花が勝手に役を得て出演し始める。よくわからないままに、ストーリーがうねり、加速していく。

その愛は狂気にも似ている
 鍵は、千代子が若い頃に一度会ったきりの画家のものだ。イメージのしりとりのように、現実と出演作とを縦横に行き来しながら進むストーリーは、起承転結がはっきりせず、どのくらい進んでいるのかもわからないので翻弄される。しかし千代子の、彼にもう一度会って鍵を返したい、という思いだけはどの場面でもブレることがなく、ストーリーを辛うじて一本につなぎとめている。
 時代や場所が変わっても、千代子は彼を追って走り続ける。当日、上映時間ぎりぎりになってしまい、走ってどうにか間に合ったのだが、内容とのシンクロぶりが凄かった(笑)

夢はつかまえられなくていい
 千代子は結局画家に会えないのだが、それを悔やむことなく、最後に意外な言葉を遺す。これにより、「千年女優」はラブストーリーとしては破綻してしまう。しかし、夢はつかまえられなくていいという結論に、何だか励まされる気がした。思い人の仕事が画家というのが象徴的で、達することより追いかけることそのものがクリエイトの本質であり人生の意義なのだ。夢をつかめ、何かを残せ、ばかりでは世の中の大半の人の人生は意味がないことになってしまう。
 監督の今敏はあまりにも早く世を去ったが、その際、あっけらかんとした辞世に驚いたのを憶えている。だが、この映画の結末を見ると、それで後悔があまり見えなかったのか、と何だか納得させられてしまうのである。 

キャラ一般受け度 5
物語一般受け度  2
驚異の完成度   9
個人的総合    9
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2024年02月04日

「バルダーズ・ゲート3」 やり直し4回目

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 一行は、影に呪われた地へ到着。ここでは、ひとたび暗闇に捕らわれると人々は正気を失って敵と化してしまう。
 唯一の安全地帯が、最後の光亭。訊けば、魔法使い(?)イソベルが一人で作った結界で守られているのだという。主人公は、この地を探索するにあたり、イソベルに助力を求めることにした。

(注:以下にダークアージのストーリーのネタバレあり)

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posted by Dr.K at 12:37| Comment(0) | TrackBack(0) | ゲーム百鬼夜行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年02月01日

ウィッシュ

 レビュアーからの評価は異様に低いが、お客はしっかり入っているという印象。タイミングの都合で、ディズニーには珍しく字幕版で鑑賞した。

 ディズニー100周年の記念作品ということで、「星に願いを」から発想したストーリーにした、のだと思うがそれにしてはあまりに尖り過ぎている。そしてその尖り方は、特に日本人には合わないと感じた。
 マグニフィコ王は、人々から願いを預かり、時にそれをかなえることで民に慕われている。王国にとって都合の良い願いのみがかなえられること、願いを預けた人々が夢を忘れてしまうこと、が彼の裏の顔、すなわちヴィランたる要素になっている。これは、まるっきり政治の話だ。私たちは、願いを政治家に預け、実現してもらう日を待っているではないか。
 一方、主人公のアーシャはスターの力を借り、人々の願いを王から解放しようとする。これは、願いの自由は保証されなければならない、願いを叶えてくれない政府は転覆させても良い、という闘争のメッセージなのである。アメリカなら受け入れられるのかもしれないが、およそ抗議運動などが盛り上がらない日本では、こういうのは馴染めない。事実、レビューでは王に同情的な論調も目立つではないか。

 スターが何者か最後まで不明、仲間になるキャラの掘り下げが乏しい、ミュージカルシーンの背景がいつになく寂しい、など粗を探せば色々あるが、本作にとって最大の不幸は、併営の短編の方が大傑作、ということだろう。先にあれを見せられては、続く本編のハードルがどうしても上がってしまうのだ。

映像美 7
歌の語呂の悪さ 7
物語の粗さ 7
個人的総合 5
posted by Dr.K at 23:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする