遥かな過去 遥かな今日 明日さえここに
先日のリバイバル上映で初めて見た。こういう集中力を要する作品は、劇場で観るに限る。
物語は、伝説の女優千代子へのインタビューという体裁で描かれる。制作会社の社長になった立花が、引退して30年姿を見せなかった千代子の出演をどうにかとりつけたのだ。立花は、長年自分の手元にあった鍵を千代子に返す。千代子は、鍵の由来について、あるいは自分の人生や出演作について語り始める。
立花は、千代子の人生をたどるドキュメンタリーを撮るつもりでいる。千代子の話の中に立花やカメラマンが入り込む、ユニークな演出ににやついていると、いつのまにか千代子の出演作と思しき内容に話がすり替わっており、立花が勝手に役を得て出演し始める。よくわからないままに、ストーリーがうねり、加速していく。
その愛は狂気にも似ている
鍵は、千代子が若い頃に一度会ったきりの画家のものだ。イメージのしりとりのように、現実と出演作とを縦横に行き来しながら進むストーリーは、起承転結がはっきりせず、どのくらい進んでいるのかもわからないので翻弄される。しかし千代子の、彼にもう一度会って鍵を返したい、という思いだけはどの場面でもブレることがなく、ストーリーを辛うじて一本につなぎとめている。
時代や場所が変わっても、千代子は彼を追って走り続ける。当日、上映時間ぎりぎりになってしまい、走ってどうにか間に合ったのだが、内容とのシンクロぶりが凄かった(笑)
夢はつかまえられなくていい
千代子は結局画家に会えないのだが、それを悔やむことなく、最後に意外な言葉を遺す。これにより、「千年女優」はラブストーリーとしては破綻してしまう。しかし、夢はつかまえられなくていいという結論に、何だか励まされる気がした。思い人の仕事が画家というのが象徴的で、達することより追いかけることそのものがクリエイトの本質であり人生の意義なのだ。夢をつかめ、何かを残せ、ばかりでは世の中の大半の人の人生は意味がないことになってしまう。
監督の今敏はあまりにも早く世を去ったが、その際、あっけらかんとした辞世に驚いたのを憶えている。だが、この映画の結末を見ると、それで後悔があまり見えなかったのか、と何だか納得させられてしまうのである。
キャラ一般受け度 5
物語一般受け度 2
驚異の完成度 9
個人的総合 9