週刊少年チャンピオンに短期連載され、単行本になるのかならないのか、と一部の愛読者をやきもきさせていた「ブラック・ジャック 創作秘話」が、このほど無事に発売された。
こういう企画の場合、まず、作中の手塚治虫をどんな見かけで描くか、が問題である。
手塚先生は、何度も自分を作中に出演させたことがあり、そのイメージはすでに広まっている。しかし、それをそのままなぞったのでは、田中圭一のパロディマンガ以下の仕上がりにしかならなかっただろう。かといって、今風の絵柄で美青年になった手塚を描いてしまうようでは、ファンとしては許し難い。
本作が採用した吉元浩二の絵は、このいずれでもなく、斬新だ。古くさく、それでいて描き込まれた絵は、今はなき「ガロ」の作家を思わせる。その絵柄が、生前の手塚が表に出さなかった、創作の執念を執拗に描写していく。本来昔を懐かしんでいるだけのハズの、現在の編集者像までことごとくうさんくさいキャラに描かれているのには笑ってしまう。すげえなこれ。
内容自体は、これまでの関連本で紹介されていたエピソードであり、ファンなら一度は聞いたことがあろうものばかり。とはいえ、再取材とこの斬新なビジュアルで、見れば見るほど面白いマンガに仕上がった。ヘタなフィクションが裸足で逃げ出す迫力がある。
最後に苦言を一言。セールスの都合とは言え、全体を見ると「ブラック・ジャック」などほとんどどうでもいい内容なのに、このタイトルを冠するのはいかがなものか。