とは言うものの、個々の作品の良し悪しに関しては、コメントを控えます。マンガとは言っても、商業的なものではなく、卒業制作ですから、それぞれに技術や表現を追求すればよく、単純に「うまい」とか「面白い」とかいうものではないでしょうから。
ただ、それぞれの展示には感心しました。もともと、マンガは本の形で読むもので、展示に適したものではありません。ですから、壁に原稿が貼ってある、というだけだとつらいものがあります。
その点、ここでの展示は工夫があります。写真のように、素材を加工し、立体的に見せるなどして、スペースを巧みに利用して目立たせています。
何より驚いたのは先端メディアの活用です。PCでムービーを再生するなんてのは当たり前、タブレットに表示してある作品がいくつもありましたし、通常のウェブサイト以外に、twitterやU-streamも活用されています。学生が中心となって、自然にこれらを使いこなしている、という感じが頼もしいです。私はコンピュータ専門学校に勤めていますが、これらのメディアを知ってはいても、学校のイベント等に全く活用できていないのが実情であり、大いに反省しました。
さて、京都精華大と私とは浅からぬ因縁があります。
私は大学では、国文学を専攻したのですが、マンガへの興味から手塚治虫を題材に卒論を書きました。
その研究がことのほか面白かったので、大学院へ進むことを考えたのですが、私の母校ではまだ院が設立されておらず、他の学校へ行く必要がありました。
その頃すでにマンガ学部を設立し、大学院まで備えていたのが京都精華大でした。私は進学を検討しました。
しかし、よく調べてみると、ここが研究対象としているのは風刺を中心としたコママンガ(現在のカートゥーン学科)であり、手塚のようなストーリーマンガではないことがわかりました。当時精華大の教授だったヨシトミヤスオが、コママンガこそマンガの本道、とストーリーマンガを否定するような論を展開していたこともあり、ここは私の行く場所ではない、と断念したのです。
しかしその後、京都精華大にはストーリーマンガの専攻ができ、竹宮恵子らが就任、漫画家がプロを育てる、という時代にマッチした学校に変わっていきます。近年では、竹熊健太郎が教授となってマンガプロデュース学科が始まりました。マンガを描かないマンガの学生? 私にとって、入ることこそありませんでしたが、色々と気になる大学だったわけです。
今回、卒業制作展を訪れることになったきっかけは、マンガプロデュース学科の学生さんからの連絡でした。私の著書を参考文献に、卒業作品を作ったのでよかったら見に来てほしい、ということでした。今の若い人が手塚作品をどう料理するのか興味がありましたし、この得体のしれない(笑)学科では何をやっているのか知りたくもあったので、実際に見に行くことにしたわけです。
私は専門学校でゲーム開発を教えています。そこでも卒業制作展はやりますが、その作品は学校で教えた一定の技術を基盤にしたもの。想定する就職目標も開発会社となりますので、商業作品に準じた、オリジナリティ、バラエティに乏しいものなのが実情です。
京都精華大の卒業制作展では、それぞれに、やりたい事を意欲のままに形にしているのが、とても素晴らしいと思いました。これは本当に貴重なことなのです! 学生さんたちの活躍に大いに期待します。この展示会が壮大なクリエイターごっこに終わるかどうかは、今後の皆さんにかかっています。
ご紹介ありがとうございました。