新海誠監督作品、「言の葉の庭」を一行でまとめるとこうなる。
まだ能力を発揮していない天沢と、夢やぶれた雫の物語
「耳をすませば」では、天沢は留学を実現するほどの才能の持ち主であり、ヴァイオリン職人の夢に向かって真っ直ぐ突き進む。それに刺激され、雫もまた自分の夢を形にするべく、物語を書く。二人の若者の恋愛は成就し、将来は希望でいっぱいである。
ところが、「言の葉の庭」はどうか。孝雄は靴職人を目指している、とはいっても、これから専門学校に入る身で、能力があるのかどうかもわからない高校生。一方の雪野は、職場を追い出されようとしている夢のない27歳。そんな二人を雨の新宿御苑が優しく包む、それが美しいのだ、とこの作品は主張する。
「耳をすませば」と比べると、なんというこじらせた感覚だろうか。だが、そのひねくれっぷりこそが新海誠の真骨頂。前作「星を追う子ども」は、ジブリの後を周回遅れでついていくようなビジュアルで釈然としなかったが、「言の葉の庭」は、鮮やかにジブリに喧嘩を売っている。これこそファンが待ち望んでいたものだ。
本編46分と短く、ブルーレイもすでに売られているが、湿気や涼しさまでが伝わってくる雨の映像を堪能できたので、映画館で観る価値はそれなりにあった。おまけに、「風立ちぬ」の予告編も見られたのだし。ほう、今度は成長したトンボの物語か。
背景映像美 10
物語陳腐度 8
懐メロ度 7
個人的総合 8
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