宮崎駿の引退がニュースになっている。
これまでであれば、こんな映画が作れる監督は引退すべきではない、と言いきれたのだが、今は違う。「風立ちぬ」があまりに引退にふさわしい作品なので反論ができない。困る。
主人公の二郎は美しい飛行機が作りたい。
だがこの「美しい」が曲者だ。彼が作っているのは芸術品ではなく飛行機、しかも軍用機としての役目がある。映画前半にぎっしり詰まった飛行機作りのこだわり描写により、性能に優れた飛行機を作ったのだ、ということは説得力をもって伝わるが、映像として出てくるのは、夢の中のファンタジックな飛行と現実でのテスト飛行だけ。この美しい飛行機が戦場に投入されたところは描写されない。
人を殺しても美しい飛行機は美しいのだ、そんな狂気的な言動はジブリ映画ではできない。
だが、作り手の狂気には大胆に踏み込む。二郎は、震災のパニックの中にあっても幻を見てしまうくらい飛行機に憑かれており、菜穂子の病が重くても仕事の方を選ぶ。菜穂子は美の犠牲者となり、報われないヒロインとなる。なぜ菜穂子を追わないのか、という観客の疑問は全く正しい。二郎の仕事への純粋さは、戦時下の社会のせいにはできない、自らが持つ狂気なのだ。
クリエイターと呼ばれる者は、少なからず二郎と同じ狂気を持っている。誰もが、自分の菜穂子を葬ってここにいる。そして、夢の草原で飛行機の残骸を見るように、過去の作品と対峙する。宮崎駿は、後進に恐ろしいメッセージを残した。若きクリエイターに、かの地に到達する勇気はあるのだろうか。
映像美 8
音響 4
独創性 9
個人的総合 6
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ありがとうございます。
両作品は、同年代、そしてモノ作りをされている方にはぜひ!とオススメした次第です。
風立ちぬは堀越二郎と堀辰雄だけではなく、おっしゃるとおりまさしくクリエイターである宮崎駿の物語なのだろうと感じました。
と同時にこの作品で描きたいことをやりきった印象を強く受けたので、
氏の引退表明も今回は本当であると確信しております。
(最後の零戦の飛行シーンのなんと美しいこと!)
Dr.Kさんの音響点数には笑ってしまいました。
確かに音関係は・・(笑
パシフィックリムに関してはもう何も言うことはありません。
あれは劇場で観た者でしか味わえない共有の高揚感と興奮があると思います。
引退記者会見、そろそろだったかな。気になりますね。