シャトルの外で通信機器の修理を行っていたライアン博士。そこへ、ロシアの衛星爆破に端を発する連鎖事故で、無数の破片が襲いかかる。ライアン博士は一人、宇宙空間へ投げ出されてしまう…。
全編に緊迫感が漲っている90分。終わった時、中学生か高校生くらいのグループが、「ゲームだったら、何度死んだかわからない」と言っていたが、卓見だ。何しろ臨場感があるので、ゲームにして体験出来たら面白そう、などと一瞬考えてしまうが、やめておいた方がいい。こんな無理ゲー、放り出すに決まっている。観るだけで済む映画で本当に良かった。
●無重力
全編の大部分が無重力の状況で展開される。思えば、宇宙へ出る映画は過去にたくさんあったが、そのほとんどは、宇宙船内に重力が作られている設定だった。無重力での演技を撮影することは困難を極めるからである。「ゼロ・グラビティ」は最新の技術でそれを乗り越えた。
主人公が危険な場所に赴く映画は、これまで無数にあったので、どんな危機にどう対処するか、予想がつくことも多い。ところが、この映画の無重力空間ではそうはいかない。危機の内容も解決方法もおよそ予想がつかず、どうなるのか目を離せないのだ。
●SFではない
宇宙と言っても、遠い未来の話ではなく、現在の宇宙開発の技術の範囲で描かれた、架空のドキュメンタリーといった趣。ヒーローも超技術もエイリアンも出てこない。宇宙空間そのものの危険さを再認識することになる。
●一人称のシナリオ
物語は、主人公ライアンの体験のみを追っていく。地上スタッフの奮闘など、事件を別の視点から俯瞰するような映像は一切ない。回想もない。時間的にもほぼリアルタイムの進行となっており、観客とライアンの立場が一体化する仕組みになっている。
●人間ドラマ
一歩間違うと、USJのアトラクションのようになってしまいそうな内容だが、主人公が困難を乗り越えて成長するという、王道のストーリーが芯を貫いており、物語に期待して来た観客をもがっかりさせない。
結末の完璧さもあって、隙のない脚本には脱帽だ。
技術力 9
緊迫感 10
体感度 10
個人的総合 10
以下に、ネタバレとなる感想を少しだけ。
もう一人の登場人物である、マットには大いに翻弄された。
前半で、ライアンを導く姿は頼もしいが、そのことで、別れてからのスリルが増している。
マットが復帰するシーンは、本作で一番驚く部分。ありえない、いや、本当に生きていたのか? と頭がごちゃごちゃになる。前半で描かれたキャラクター性のせいで、こいつだったら生き残りかねない、と思わされてしまうのがうまい。実際には、幻というか霊的体験というか、そういう現象に過ぎなかったのだが、改めて味わう喪失感が半端ない。
映画の一人物に、こんなに弄ばれたのは久しぶりである。