160人以上の敵を倒した、アメリカ軍の伝説的狙撃手クリス・カイル。その自伝を原作とした映画だ。
私たちは、これまでにも戦争を題材にした映画を数多く観てきた。第二次世界大戦を題材にしたものから、未来の戦争を描いたものまで、様々だ。
「アメリカン・スナイパー」は、戦争の今を生々しく描いたところに価値がある。作中で描かれる9.11のテロは、私もテレビで見ていた。2003年から、4度にわたる中東派兵を主人公は生き抜く。
主人公は実在の人物であり、戦争もまた実際のものだ。冒頭、爆弾でアメリカ軍を阻もうとするイラク人の母と子を、主人公が狙撃する。この瞬間、映画が本気でリアルを描こうとしていることがわかった。アメリカでは、一見、暴力表現や残虐表現に寛容に見えるが、実はそうではない。特に、女性や子供を犠牲にすることはフィクションでは避けるべき、とされている。
さて、日本が経験した戦争は第二次世界大戦までであり、それは70年も昔のこと。戦地に兵隊を送り出したら、その家族は無事を祈って待つしかない。連絡は手紙や電報という時代だ。ところが、この映画では、携帯電話があるので家族と話ができる。話している間に戦闘があり、電話が切れ、故郷の妻は不安にさいなまれる。戦場と日常生活がリアルタイムにつながってしまうおぞましさが、迫真の映像で表現されていた。
とはいえ、息が詰まるような苦しい作品ではない。スナイパーという役割がどんなものか知る、職業ものとしての面白さもあるし、敵側スナイパーとの対決などエンターテインメントとして楽しめる部分もある。そこが、ヒロイックで戦争賛美と批判される余地を生んでしまっているのだろう。
この映画の企画中に、クリス・カイルが殺されてしまう事件が起き、本作のエンディングは構想段階とは変更された。戦場では英雄であっても、平和な祖国ではいかれた男に過ぎない。現代の戦争を象徴する死は、この映画の完成度を高めたように思う。
このような時代を切り取った映画を、85歳で撮れるクリント・イーストウッドは化け物だ。
主役そっくり度 10
悪役残虐度 9
結末無常感 8
個人的総合 8
この作品、知人にぜひ観てとオススメしています。
次に相手からは面白い?感動するの?凄いの?
と尋ねられますが、
そこでなんと説明していいのか難しいんですよね。
合っているんだけど、そうじゃない。
何かが違う・・・
最近これでいいかなという言葉が見つかりました。
「とても価値のある映画だよ」
これからはこう説明しようと思っています。