2016年12月18日

手紙は憶えている

間違っていたなら教えてください 今のうちに

 こうの史代が、「この世界の片隅に」の巻末に書いた言葉です。戦後70年が過ぎ、当時のことを憶えている人がいなくなっていく。その危機感が表れています。
 さて、映画「手紙は憶えている」もまた、ぎりぎり今だからこそ成立した物語です。主人公ゼヴは、アウシュビッツを生き延びた老人で、現在は介護施設で暮らしています。ゼヴは、同じ施設のマックスから一通の手紙を託されます。アウシュビッツで私たちの家族を殺したナチスに復讐せよ、手紙にはその手掛かりや方法までもが書いてありました。こうしてゼヴの旅が始まります。
 ゼヴは90歳の老人ですから、派手なアクションなど皆無。しかし、物語は極めてスリリングです。復讐相手の候補は、マックスの調査であらかじめ4人にまで絞られているのですが、真実にたどりつくまでの綱渡りがすごい。何しろゼヴは認知症で、朝起きると自分がどこにいるかも忘れてしまうのです。そのたびに手紙で思い出すので、まさに「手紙は憶えている」けど自分は忘れているわけです。さらに、どうにかたどり着いたとしても、相手が存命かどうかさえ危うい年齢なのです。
 予告では、〈ラスト5分の衝撃〉などと煽っていますが、伏線が丁寧に貼られているので、あらかじめ答えが見つかる人も多いでしょう。しかしそれによって本作の値打ちが下がってしまうことはなく、物語が組み上がる快感を十分に楽しむことができます。
 すべてを現在の映像のみで通し、回想シーンで説明や種明かしをしない演出も見事。この物語はフィクションですが、戦後が今の現実に続いていることを強く印象付けています。

スリル 10
衝撃  7
出演者平均年齢 最高齢
個人的総合 7
posted by Dr.K at 11:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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