2018年02月19日

スリー・ビルボード

 アカデミー賞の有力候補らしいが、こんなのを選ぶなんて、審査員はマゾやな。これだけ観客をもてあそぶ映画、なかなかあらへんで。

 アメリカの片田舎で、女性がレイプされた上殺されるという事件が起こる。それから7か月、被害者の母ミルドレッドは、捜査が進まないことに業を煮やしていた。彼女は広告会社のレッドと契約し、道路わきの看板にメッセージを掲げる。

「はよ犯人を捕まえんかい、このボンクラ署長!」

 3枚の看板(つまりこれがスリー・ビルボード)はテレビにも出て一躍話題になる。ところが、この名指しされた署長が、警官たちや町の皆から慕われる人物だったのでさあ大変。周囲を敵に回し、息子にも背を向けられた母の孤独な戦いが始まる。

注:以下に結末を含むネタバレあり

 なるほど、この母が権力に負けずに犯人を見つけ出す話なのだな。
 だが、続きを観るとどうも雲行きが怪しい。
 署長のウィロビーは、殺気立つ支持者をなだめ、ミルドレッドに対しても「手掛かりがなく動けない」と正直に話す。ウィロビーは末期の癌を患っており、残された時間を家族と過ごしたい。家族に看病の負担をかけることを厭って、ウィロビーは拳銃で自死する。あれれ〜? 敵の親玉と思っていたキャラが退場しちゃったぞ。

 この自殺は、看板騒動が原因だとみなされ、ミルドレッドはますます孤立を深める。ついには怪しい男がミルドレッドの店を荒らす事態になる。そこに、ウィロビーの妻が、ミルドレッドあての遺書を持って訪れる。そこには、自殺は看板とは無関係であること、秘密裏に看板の広告費を払ったことが書いてあった。署長は裏で悪を働くこともない、懐の深いええ奴やった。

 一方、警察には、黒人に暴力を振るうようなクズ警官、ディクソンがいた。彼はウィロビーを父のように慕っており、その訃報には失神するほどのショックを受ける。ディクソンは怒りに任せて広告社に押し入り、レッドを半殺しにする。直後に赴任した新所長は、素行の悪いディクソンにクビを言い渡す。
 なるほど、ここからは主人公が憎しみを募らせたディクソンと対決するのだな。

 ある晩、看板が放火される事件が起こる。警察の誰かがやったに違いない。ミルドレッドは、仕返しとばかりに火炎瓶で警察署を焼く。夜中に、誰もいないことを確認しての犯行だったが、折悪しく署内には、ウィロビーからの遺書を受け取って涙ぐむディクソンがいた。ディクソンは志を思い出し、レイプ殺人の捜査資料を持って脱出する。
 大怪我のレッドは、同室になった全身火傷の患者に親切にふるまう。彼の謝罪を聞いてディクソンだとわかり、怒りを露わにするが、後でそっとジュースを差し出す。怒りが連鎖するような物語なので、ここで毒でも盛ってあったらどうしようと思った。実際には、これ以降赦しの連鎖へと転換する。
 放火の疑いを逃れたミルドレッドがレストランで食事をしていると、元夫が現れ看板への放火を告白する。酒瓶を片手に立ち上がったミルドレッド、さあ元夫を殴り倒すのか、と思いきや、元夫の愛人の言葉に気勢を削がれたのか、酒をプレゼントして去る。もうこれわかんねえな、主人公が自滅して終わりかな。

 退院したディクソンが酒を飲んでいると、近くの席でレイプ自慢をしている男がいた。例の事件の犯人ではないかと考えた彼は、男を挑発してケンカに持ち込み、DNAを採取する。しかし検査の結果、男は犯人ではなかった。ディクソンはミルドレッドに電話し、残念な結果を伝える。このとき猟銃を抱えているので、ディクソンが自殺しやしないかとひやひやした。
 とはいえ、男は別のレイプ事件の犯人には違いない。ディクソンはミルドレッドを誘って男の居場所へ向かう。その車の中で、ミルドレッドは署を放火したのは自分だと告白。ディクソンは「あんた以外に誰がやるんだよ」と返す。

 「男を殺したいか?」「あんまり。あんたは?」「あんまり」「じゃあ道々考えましょう」
 およそ勢いのない会話で、唐突に映画は終わる。なんやこれ。男に会うのか、制裁は行われるのか、すべては想像に任される。そしてついに判明しない真犯人。これらによって、ミルドレッドやディクソンがどう変わるかが主題ということがはっきりした。観客を裏切りつつも、別のゴールへ着地させてみせる、非常に憎い脚本である。
 すっかり騙され通しだったが、もう一度観たらミスリードはミスリードとわかるようになっているんだろうか。傑作だとは思うけど、賞を与えるにはちょっと小賢し過ぎなんちゃうかな。

予測不能度 8
キャスト意外性 9
ジャンル不明度 10
個人的総合 7
posted by Dr.K at 17:11| Comment(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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