蒔田彩珠を知っているだろうか。子役でデビューして現在16歳の女優だ。テレビの中ではアイドルやタレントが愛想の良い笑顔をふりまいているが、蒔田はちっとも笑わない。あてられるのが大体不機嫌な娘役で、脇でちょっと出るだけでも、その存在感は際立っている。そんな蒔田がメインキャストで映画に出るという。ならば行かねばなるまい。
そんなわけで、押見修三のマンガが原作という事も知らずに観た。圧倒された。
物語の主人公は志乃(南沙良)。ひどい吃音で、まともに会話ができないが、なぜか歌だとスムーズに言葉が出せる。一方の佳代(蒔田彩珠)は、ギターが趣味で将来はミュージシャンと考えているが、致命的な音痴。この二人が出会い、文化祭でガールズバンド「しのかよ」としてステージに立とうとする。
(注:以下に結末までのネタバレを含む)
前半は、きわめてオーソドックスな青春映画だ。設定が現代ではなく、懐メロを演奏するので、メインキャストの若さに関わらず、実は年配者向けの映画なのかもしれない。二人が友情を深めていく描写のほほえましさ。そして度胸試しにストリートで演奏するシーンの多幸感ときたら!
だがこの作品の結論は全く甘くない。
オープニング、新しいクラスで自己紹介をするときの、失敗できない嫌〜なプレッシャーが、とてつもないリアルさでしつこく描かれていたことを、私たちは忘れてはいけなかったのだ。
二人の行き違いにより、バンドは決裂。文化祭には佳代が一人でステージに立つことになる。志乃はそこへ向かうが、ついに歌うことはない。この苦いリアルさが、作品を一つ上のレベルに押し上げていると思うのだ。
他の作品では、ごたごたがあっても、最後にはステージで成功することが多い。フィクションとしては王道だが、それはすでにありふれている。いやいや、「心が叫びたがっているんだ」をけなしているわけじゃないぞ。
エンディング、バンドが再結成される兆しはなく、二人はこのまま一時の友達で終わってしまうのかもしれない。だが、自分と向き合うことで新たな可能性が芽を出した。普遍性が高く、多くの人の心に響く作品になったと思う。
志乃 8
佳代 10
楽曲 8
個人的総合 9
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