2019年07月17日

海獣の子供

 「大切なことは言葉にならない」
 と、エンドロールで米津玄師が歌っていますが、全くその通りの映画です。とてつもなく豊かな映像と反比例するかのように、抽象化された言葉は何も伝えてくれません。

 夏休みを迎えた少女の日常から始まった物語は、〈海獣の子供〉である二人の少年との出会いをきっかけに、〈誕生祭〉と呼ばれる神秘の場所へと導かれていきます。この振れ幅の大きさは、「2001年宇宙の旅」にも匹敵します。
 全編が生命に満ちています。元気な少女、海中で躍動する少年たち、そして周囲を埋め尽くす海洋生物。CGで作られた部分も、特有の冷たさがなく、生々しく描けていて感心しますね。一方、地上の生命を象徴するのが、昆虫たちなのですが、なぜか蝶やカブトムシといったメジャーな奴は出てこない。カミキリムシやマイマイカブリが出演するというのは、相当にマニアックです。
 クライマックスとなる〈誕生祭〉の映像は、壮大なイメージの奔流となってすべてを包みます。しかし、ただわけのわからない映像とはちょっと違います。一つ一つはいずれも具体的な実在のもの。銀河だったり、微生物だったり、古代魚だったりと、図鑑を探せば出てくるものばかり。でも、それらがどんな脈絡になっているかわからないので、とても不気味なイメージになっているのですね。生命の誕生という極小の現象と、星の発生という極大の現象とがつながるという世界観は、「火の鳥」でも見たことがあるのですが、先導して解説してくれる火の鳥がいないこの物語の方が、より突き放した感覚を与えます。
 ラストシーン、少女は母の出産に立ち会い、赤ちゃんのへその緒を切ります。一般的にはめでたいこの場面を、少女は「生命を断つ感触がした」と語ります。羊水は海と同じ成分、というのはよく知られていますが、そうなると出産とは赤子が海から切り離される瞬間でもあるわけで、〈誕生祭〉を経て変化した少女の感性が表現されているのだと思います。
 原作はもっと詳しいらしいので、機会があれば比べてみたいと思います。

映像美 10
神秘性 10
面白さ 3
個人的総合 6

他の方の注目すべき批評
忍之閻魔帳: アシュラと並べるのは驚き
Yuenosu@Revue: わかりやすい考察

posted by Dr.K at 22:58| Comment(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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