ちゃんと面白い。何よりもそのことを評価したい映画です。
1960年代の南部アメリカを舞台に、根強く残る人種差別を描いた作品。しかもアカデミー賞作品賞となれば、まじめに観ないと、と余計なプレッシャーを感じてしまうのも無理はありますまい。
しかし実際は、軽快で観やすい内容。主人公のトニーは、無学で乱暴なイタリア系白人。クラブの用心棒をしていましたが、クラブが改装となった休業中に、運転手の仕事を頼まれます。依頼主のドナルドは、黒人ながら世界的なピアニスト。ここでは、白人の方が庶民で使用人、黒人の方が教養ある富豪、と立場が逆転しています。トニーは普段見下していた黒人とは勝手の違う相手に四苦八苦。そのちぐはぐさが笑いを生んでいます。フライドチキンのシーンやピザの食べ方が印象に残るあたりも、娯楽性の高い絵作りと言えますね。
二人は南部への演奏旅行で、北部では表立っていなかった差別的な慣習に触れ、徐々に同志となっていきます。トニー自身がもともと差別意識を持っており、決して正しい奴ではありません。そのことで、説教臭くなく差別の非道さが伝わってきます。この雰囲気は、「最強のふたり」とちょっと似ています。
声高にテーマを訴えず、個人的で心温まる結末に導いていく、品のいいエンターテイメントとなっていました。下品この上ない「メリーに首ったけ」と同じ監督とは思えませんね! お見事です。
面白さ 7
説得力 8
後味 9
個人的総合 8