2021年08月06日

ウルフウォーカー

 舞台は中世アイルランド。イギリスの護国卿がこの地を征し、森を切り開いて農地にしようとしています。さて、主人公である少女ロビンは、父とともにイギリス本国から渡ってきました。父は護国卿に仕えるハンターで、開拓の邪魔になるオオカミを退治するのが任務。父にあこがれるロビンは、狩りを手伝いたいのですが、まだ幼いので留守番を命じられています。ある日、こっそり城下町を抜け出したロビンは、この地で語り伝えられるウルフウォーカーの少女と出会います。

 これは面白い、素晴らしい!
 絵本のようにデフォルメの効いた絵で、ともすると動きに乏しそうな雰囲気なのですが、これがもう気持ちよく動く。アクションを楽しんでいたらあっという間でした。
 日本のアニメだと、キャラがデフォルメされていたとしても、背景は正確にパースや陰影がついているものです。ところがこの作品は、一部の背景でパースや陰影が無視されており、子供のラクガキのような、エジプトの壁画のような不気味な構図となっているのです。このリアリティのなさゆえに、イギリスによるアイルランド占領という、歴史的な背景が後ろへ退き、おとぎ話へと転化できているのでしょう。
 ストーリーは、ひどい言い方をすると、アシタカとサンが幼い少女になった「もののけ姫」、という感じです。しかし、「もののけ姫」が、自然か文明か、という問いや迷いを内包した作品であるのに対し、「ウルフウォーカー」は、自然の側を全肯定しています。森のオオカミはいつも自由。躍動するアニメーションがそれを雄弁に語ります。一方人間の側はと言うと、ロビンの父は護国卿にしばられ、護国卿はキリストの教えに縛られ、いつも不自由の中にあります。四角四面の絵がさらにその印象を強めます。
 物語の冒頭でウルフウォーカーに遭遇した羊飼いの親父は、全編のほとんどを張り付けになったまま過ごします。この親父が全くへこたれていないのが面白い。たとえ政治的にはイギリスに支配されても、庶民の心はウルフウォーカーの伝説とともにある、ということなのかもしれません。

 制作元のカートゥーン・サルーンは、アカデミー賞ノミネートの常連ということなのですが、このスタジオの作品を観たのは今回が初めて。こりゃあ他の作品も観てみなくちゃいけませんね。

アニメーション 10
見た目の個性 9
音楽性 8
個人的総合 9
posted by Dr.K at 19:30| Comment(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: