2023年01月15日

かがみの孤城

 これはいい! 原作は未読だが、監督の作風と合っているのかも知れない。原恵一監督のアニメは、「百日紅」「バースデー・ワンダーランド」とパッとしない作品が続いたが、一安心だ。

 こころは、不登校の中学生。ある日、いつものように引きこもっていると、部屋の鏡が、異世界の城と接続する。そこには、こころを含め7人の中学生が集められていた。謎の少女〈オオカミさま〉は、彼らに対し、この城のどこかにある〈願いの部屋〉の鍵を探すよう告げる。

 こうなるだろう、という予想をことごとくはずされるのが面白い。例えば、異世界に集められ、鍵を見つけるまでは帰れない、なんてのはよくあるパターンだが、この孤城は逆。夜は鏡を通って帰らねばならず、昼間だけ通うというルールになっている。そのせいか、皆あまり真剣に鍵を探そうとしない。気が向いたら城に来て、ゲームをしたりお菓子を食べたりして過ごす。こころに至っては、怪しんで何日も城に行かないほどである。場所こそ異世界だが、まるでフリースクールかステップルームか、といった感じになってくる。
 そして、アニメで異世界が舞台となれば当然期待される、魔法やらアクションやらといった描写が最低限に抑えられ、現実世界のリアリティの方が重視されているのが面白い。例えば、冒頭に語られるこころの心情のリアルさ。後半に明かされるいじめの描写の恐ろしさ。アニメとしてはおよそ地味だが、物語の質は非常に高いと感じた。
 おそらく原作が中学生くらいを対象にしているのだろう、だいたいの謎は事前に察することができてしまうが、丁寧に着地するので不満は出ない。畳みかけるクライマックスにも引き込まれる。何より、加害者が懲らしめられるというような、安易な解決を描かない誠実さが絶品。こころが勇気を持って踏み出す一歩に、想いが重なる心地がした。

 もう配られていないと思うが、入場者特典が素晴らしい。これを見ることも作品の一部、という演出になっていて、感動が増した。ランダム封入なのが残念、他のもぜひ見てみたい。

ビジュアル 5
ストーリー 9
入場者特典 9
個人的総合 8

他の方の注目すべきレビュー
三角締めでつかまえて:生涯ベスト級、と絶賛。
映画にわか:この見識、絶対にわかじゃないでしょ
posted by Dr.K at 23:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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