映画「敵」を観てきた。タイトルが一文字だと検索に支障あるな!
儀助は、元大学教授。妻は20年前に亡くなり、一人暮らしを続けている。規則正しく起き、料理をし、原稿を書き、時には友人や教え子と会う。しかし、淡々とした日常に、一通のメールが届く。〈敵〉の上陸を警告するそれを、儀助はいつもの迷惑メールとして無視するが、そこから徐々に日常がおかしくなっていく…
この映画では、何が現実であり、何が〈敵〉なのか明かされないので、解釈の余地が非常に広い。それを面白いと思える人には大いにお勧めできる。
〈敵〉とは、迫りくる死や老いであろう。儀助はあまりにきちんと暮らしていたが、それは老いを受け入れないための防衛的な態度とも言える。数々の悪夢を経て、儀助は老いを受け入れ、破れかぶれになって立ち向かったのである。
しかし、そうとも言い切れない。物語の前半、儀助の遺言には、相続の対象として教え子の靖子や椛島の名前が挙がっていた。ところが、最後に読まれる遺言では、甥の槙男だけが指名されている。悪夢の中で、靖子や椛島との関係は無茶苦茶になってしまうので、書き換えたのだろうか。もしかすると、靖子や椛島の訪問自体がすべて夢だったのかもしれない。そうなると、槙男が双眼鏡で見た儀助は、かなり恐ろしいタイプの霊ということになる。
全編モノクロの映像は、美しいと同時に、現実と夢の境界をあいまいにする。色がないのに料理の数々がおいしそうなのは驚いた。編集者が突然厚かましくなって鍋を食べる場面に、最も筒井康隆らしさを感じた。他の作品にも必ず出ている人物だ。
キャスティング 8
予測不能度 7
飯テロ度 10
個人的総合 6

