2025年07月21日

once ダブリンの街角で

 2007年の映画がリバイバル上映。ジョン・カーニー監督の出世作ですが、「はじまりのうた」も「シング・ストリート」も観たのに、これだけは未見だったので良い機会でした。

 物語は、主人公が弾くオリジナル曲を、一人の女性が褒めるところから始まります。しかしこの恋、始まった瞬間から厳しい。
 男は30代のストリート・ミュージシャンで、食べていくことはできないので、普段は父の店を手伝っています。それが掃除機の修理なのですが、アイルランドでは珍しくないのでしょうか、まるで自転車屋くらいの感じです。女性は修理を頼むのですが、掃除機を犬のように引っ張って町を歩くのが妙にかわいいです(笑)
 一方、女性の方ですが、チェコから来た移民で、花売りを仕事にしています。暮らしは貧しく、電話もありません。後ほど、夫はチェコにいて別居中、幼い娘と母の面倒を見ていることが明かされます。とうてい、過去を捨てて新しい恋に、という気分にはなれません。
 海の向こうにはロンドンというきらびやかな都会があるのに、アイルランドの地方都市はどんよりしている。東京との格差を気にする日本の地方民のような、リアルな不景気感が画面から漂います。歌が多い分テンポも悪く、憂鬱な前半で正直めげそうになりました
 ところがこの物語、音楽に関してだけはファンタジーなんですね。楽器店での即席のセッション、女性のアパートでの歌いながらの飲み会、そしてスタジオを借りてのデモCDの作成。歌も気のせいかテンポアップ、希望に満ちた後半に救われました。
 最後に、男は一人でロンドンに旅立ち、女性に別れを告げることが叶いません。男は代わりにピアノを贈ります。粋な結末ですが、置く場所がなかったらどうするんだろう、と要らぬ心配をしてしまいました。
 この文を読んだ人にはバレバレですが、エンドロールで、主人公と女性に名前がなかったことに気付き、びっくりしました。会話に全く不自然さがなく、見事な脚本です。調べてみたところ、二人とも本業はミュージシャンで、俳優として映画に出たのもこの作品だけなのだそうです。キャスティングもお見事でした。

 今回のリバイバル上映、日本最終上映だそうです。他の映画でもたまに見かける言葉ですが、上映権には期限があるのです。これはという作品のリバイバル上映は、逃さず観るようにしないといけませんね。

キャスティング 9
大人度 10
楽曲 8
個人的総合 5
posted by Dr.K at 20:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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