2020年09月13日

2分の1の魔法

 それほど期待していなかったが、やっぱりピクサーはうまい。

 まず、世界観の伝え方がうまい。剣と魔法のファンタジーといえば、時代は中世くらいと決まっているが、それが現代になったら? という舞台設定。文明が進んで魔法が忘れられ、アメリカの郊外のような住宅地になっているのだが、野良ユニコーンがゴミを漁っているビジュアルのインパクトがすごい。
 脇のキャラクターがうまい。室内犬並みにスケールダウンしているドラゴンが情けない。冒険のカギを握るマンティコアが、現代にすっかりなじんで(?)仕事に奔走しているのが面白い。暴走族のピクシー、小さな体でバイクに乗る方法が斬新だ。ファンタジーものでお馴染みの種族が、再解釈されてユニークなキャラになっている。
 兄のバーリーは、ゲームから得た知識で冒険を導いていく。魔法カードの絵柄に既視感があるな、と思ったらエンドロールにウィザーズ・オブ・コースト社がクレジットされていた。MtGの許諾もらったのかな。
 クライマックスの戦闘はかなりのお気に入り。敵も迫力があるし、ここまでに出てきた魔法を見事に応用して使いこなすイアンの姿に、大きな成長を感じることができる。この部分、ゲーム化したら面白そう。開発は、ビジュアルが似ている「ナック」の会社に依頼したい。
 ハッピーながら、ちょっと切ない結末も粋で良い。吹替え版では、エンドロールで「全力少年」が流れるが、わざわざ選ばれただけのことはあって歌詞が見事にマッチしており、最後まで感心させられた。

世界観 9
吹替声優 7
王道度 9
個人的総合 8
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2020年09月03日

コンフィデンスマンJP プリンセス編

●周到なプロモーション再び
 本編を見たからこそ言えるのだが、予告編が秀逸だ。コックリ(関水渚)の存在を隠す形で編集されている。
 実際は、コックリが主役級の活躍を見せるため、意外かつ新鮮な気持ちで楽しむことができた。関水の演技は素晴らしく魅力的で、レギュラー陣に全く負けていない。抜擢されるだけのことはあると感心した。

●安定のストーリー運び再び
 ダー子一味は、富豪の遺産を奪うため、コックリを偽の娘に仕立て上げる。いつものメンバーが、コックリをサポートするために奔走する。その過程で、3人+五十嵐の持ち味がきっちり生かされている。
 舞台は前作よりさらにスケールの大きなリゾート地になり、歴代ゲストをはじめ豪華キャラの共演も楽しい。特に、デヴィ夫人の出演は卑怯である。竹内結子や三浦春馬の再登場も嬉しいが、前作のオチを受けての出演となるので、先に「ロマンス編」を見ておくことは必須となる。

●見事などんでん返し再び
 どんな種明かしが待っているのか、色々予想しながら見るのだが、今回も全くもって当たらない。しかもなんだかいい話になっている。自爆テロのおじさん、誰かの仕込みだと思ったんだけど、はずれたなあ。
 いい話で終わらず、エンドロール後に再び生瀬勝久で落とすあたりも抜かりない。次回作があるのかわからないが、このオチは毎回続けてほしい。

キャスティング 10
リアリティ 3
エンタメ度 9
個人的総合 8
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2020年08月17日

おにいちゃんのハナビ

 いつもだったら各地で開催されているはずの、花火大会は中止。お盆なのに里帰りできない、という人も多いことでしょう。そんなときにこの映画をチョイスして上映してくれるパルシネマは素晴らしいですね。

 難病の妹、華(谷村美月)に励まされて、ひきこもりの兄、太郎(高良健吾)が奮闘します。私、こういう物語は苦手なんですが、「おにいちゃんのハナビ」は、なんというかバランスがいいですね。妹がいい娘過ぎるだけだと、現実離れしてしまいますが、兄の引きこもりぶりがリアルで、地に足が付いている感じがします。
 舞台となる、新潟の片貝まつりがまたいいですね。祝い事だったり、追悼だったり、個人が奉納した花火には想いがのっています。こういう祭りだったら、時代が変わっても続いていきそうです。会場のシーンでは、そこまでの話で出てきた住人が、それぞれに花火を楽しんでいる様子が映されます。ここで華を気にかけていた担任(佐藤隆太)が出ないのが気になりますね。話が湿っぽくなりすぎると思ったのでしょうか。
 ストーリーは予告編の通りで、意外性はありません。しかし、スクリーンいっぱいに広がる花火は感無量。そして、最後に待っている小さなサプライズにも泣かせられます。

 内容もさることながら、上映のタイミングが素晴らしく、映画館で観る価値がありました。ありがとうございました。

季節感 9
地方色 9
感動度 9
個人的総合 9


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2020年07月30日

ガーンジー島の読書会の秘密

 イギリスの離島、ガーンジー島は、戦時中ナチスの占領下にあった。島民は、この災難をひと時忘れるため、こっそり集まって食事会などを開いた。その会は、ナチスの目をごまかすため、読書会の形をとった。
 そして戦後、作家のジュリエットは、この読書会に興味を持ち、取材して本を書こうと思い立つ。一度は現地で温かく迎えられたジュリエットだったが、会の創設者であるエリザベスがおらず、そのことについては誰もが口をつぐんでしまうのだった。

 邦題がまずくて、何やらサスペンスのような気配だが、実際は純然たるヒューマン・ドラマかつラブストーリーである。秘密の中心にいるエリザベスが、そこにいないことによって逆に大きな存在感を感じさせるという仕掛けが面白い。この点で、私が大好きなゲーム「Life is Strange」と近しいものを感じた。このゲームでは、行方不明のレイチェルが物語に大きな影を落としており、どんな娘だったのだろう、と想像させることがプレイヤーをけん引する。
 ジュリエット役のリリー・ジェームズは、さすがにシンデレラを演じただけあって、地味な田舎を背景にしても美人オーラが凄い。物語では、夫となる候補が何人か出てくるが、全員見劣りしてしまう(笑)

歴史もの度 5
ローカル度 8
恋愛もの度 7
個人的総合 5
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2020年07月25日

ベイビー・ドライバー

 主人公のベイビーは、交通事故で両親を亡くして以来、耳鳴りが止まらない。しかし、一度音楽をかければ、天才ドライバーとして覚醒する。犯罪組織の逃がし屋として使われていたベイビーは、恋人との出会いをきっかけに足を洗おうとするが…。

 とても評判が良いので気になっていたこの映画、このたび、ドルビーシネマ版として再上映。かなり料金が上乗せになってしまうが、せっかくなので思い切って観に行く。
dcinema.jpg
シアターの入り口からこの物々しさ。通路の映像が専用のものになってなくてちょっと残念。
 「ベイビー・ドライバー」の見どころは、音楽とシンクロするアクション。ドルビーシネマの音質が生かされ、迫力満点で楽しめた。また、ドルビーシネマの特徴として、黒が本当に真っ暗になるのだが、そのせいでシーン切り替えのブラックアウトが強烈すぎる

 犯罪組織なので、基本的にイカれた悪人しか出てこない。そんな中、ヒロインのデボラがめっちゃいい子で、野獣の檻に放たれたウサギ状態。ベイビーの気がかりが身につまされる。クライムアクションの割には、後味の悪くない結末で、最後まで見やすい良作である。

つかみ 10
盛り上がり 9
結末 7
個人的総合 8
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2020年07月05日

風の谷のナウシカ

 私が初めて「ナウシカ」を観たのは、学校だった。しかも、体育館や教室ではなく、理科室。文化祭の出し物の一つだったようだが、今にして思えば、化学の先生の趣味だったのだろう。素晴らしい内容に感動し、薬品の匂いとともに記憶に残った。

 今回の特別上映で、初めて映画館で観ることになった。テレビで何度も見ており、知り尽くしているこの作品を、映画館で観る価値はどれくらいあるだろうか。
 価値は充分すぎるほどにあった。
 大きなスクリーンは、いつもなら気にしないディテールをはっきりと映し出し、映画館ならではの音響は、テレビでは聞き取れなかったわずかな音も届けてくれた。こんなに面白かったのか、と感心してばかりの2時間だった。何よりすごいのは、内容が全く古びないことで、原発事故やら新型コロナやらを経てから観ると、腐海がただのフィクションとは思えない。現に観客も全員マスクをしているのだ。
 主要なキャラがことごとくかっこいい「ナウシカ」だが、今回の鑑賞で、ジジイがいい味を出していることに気が付いた。トルメキアに従えられたナウシカは、5人を連れて従軍するよう命じられる。そこでナウシカは、腹心のミト爺に加えて、3人のジジイを連れていく。

「やれやれ、姫様も惜しげもない者ばかりよう選んだわい」

達観した軽口が粋である。乗った船が腐海に落ち、ジジイたちはパニックに陥る。ナウシカが機転を利かせてマスクをはずし、彼らに指示をするのだが、このとき、姫様を思うあまりあわてふためく姿も微笑ましい。ただの役立たずに終わらず、いざとなれば敵から戦車を奪って大立ち回りを見せるのもかっこいい。捕虜となってからも、クシャナを諭すかのような物言いをし、年長者の貫禄を感じさせる。私も将来はこんなジジイを目指したいと思う。
 後の宮崎アニメのジジイは、監督の考えを代弁するようなところがある。しかし、「ナウシカ」の頃には宮崎監督もまだ若造だったはずで、なぜこんなに味のあるジジイ共を描けたのか、不思議でしょうがない。

風刺性 10
完成度 10
久石サウンド 10
個人的総合 10
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2020年06月21日

ヘアスプレー

 陽気な太い娘が、歌って踊って世の中をハッピーにする映画。
 新開地のパルシネマが、営業再開記念の特別ラインアップとして上映したが、大正解。間引き販売となった座席は完売し、空席があるのに補助席が出るという怪現象が起こった。

 主人公のトレイシーは歌とダンスが大好きな女子学生。いつも見ているテレビのダンス番組に出演することを夢見ている。この番組は、ティーンのアマチュアをオーディションで起用する生放送の番組で、地元のヘアスプレーを作る企業がスポンサーについており、タイトルはここからとられている。
 番組には、月に一度のブラック・デーが設定され、黒人が出演できるのはこの日だけと決められていた。一方、トレイシーは学校で、居残り部屋の黒人たちと、ダンスをきっかけに交流を持つようになる。そして、黒人と白人が一緒にテレビに出演できるよう、デモに参加する。
 これが、1960年代を舞台にした物語ということに愕然とする。今のアメリカを見るとちっとも前に進んだとは思えない。タイムリーな上映を実現させた、館長の慧眼に脱帽だ。
 やがて迎えた、ミス・ヘアスプレーの発表。友人の協力と出演者の機転によって、番組の中で差別の壁が突き崩されていく結末は素晴らしくハッピーだ。そしてこの時、トレイシーはトレードマークだった髪形をやめているのだが、60年代を通り越して2000年代的な見た目になっている。今に続く物語、ということを強調しているのかもしれない。

パワフル度 9
キャラの濃さ 9
テーマ性 9
個人的総合 8
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2020年06月13日

オーケストラ!

 舞台はロシアのボリショイ交響楽団。清掃員のアンドレは、かつては天才的な指揮者だった。80年、共産党の意向に背いてユダヤ人の奏者たちを守ったために、楽団は解散させられ、音楽活動を禁じられたのだ。
 ある日、ボリショイ交響楽団にパリでの演奏依頼のファックスが届く。アンドレはそれを盗み取り、30年前の団員らを結集した偽の交響楽団で仕事を受けることを思いつく。

 ラストシーンの演出が面白い。
 ごたごたを乗り越えて実現したコンサートを、十数分にわたる圧巻の演奏シーンで描写する。しかし、いくら演奏が素晴らしくても、そのままではオーケストラ中継になってしまう。そこで、演奏中の心理の変化を表情で伝えたり、物語の種明かしとなる回想シーンを織り込んだりと、映像が退屈にならないよう工夫を凝らす。さらに、曲の後半では、普通だったら演奏後に描かれるであろう、後日談となる場面をテンポよく挿入していく。未来なのか妄想なのか、一瞬解釈に迷うような見せ方だ。
 しかし、この見せ方のおかげで、演奏が終わった瞬間にビシッと映画を終わることができるのだ。これは鮮やか。年齢の高い楽団員の中で、一人だけ若いメラニー・ロランの美しさも特筆ものである。

混迷度 8
音響 9
爽快度 9
個人的総合 7
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2020年06月08日

若おかみは小学生!

 予想外の感動作として話題になったアニメ映画。児童文学が原作ということで、昭和の幼年マンガのような見た目だが、少なくとも映画に関しては全く子供専用ではない。
 おっこは交通事故で両親を亡くし、「春の屋旅館」の祖母に引き取られる。旅館には幽霊のウリ坊が住みついており、彼にそそのかされて、おっこは若おかみを目指すことになってしまう。
wakaokami.jpg
その時の変なポーズ。昭和の頃にどこかで見たような気がするが、思い出せない(笑)
 旅館での生活は楽しいばかりでは済まず、問題のある客が度々訪れ、おっこは窮地に陥る。ここで、小学生という設定が生きる。おっこがストレートにぶつかっても嘘くさくないのだ。大人には、このような直情的なやりとりはできない。また、おっこは小学生なのでここより他に居場所がない。大人だったら、別の仕事、別の場所を自ら探すという事もあるはずだ。
 特に感心したのが悲しみの表現で、両親を亡くした割には、おっこは旅館に来た時からいきなり元気だ。母を亡くしてふさぎこんでいるあかねの方が、よほど普通に見える。しかし、おっこは立ち直ったのではなく、死を受け入れていなかったのだ、ということが明らかになる。親の布団にもぐりこむ夢とも思い出ともつかないシーンに、背筋が寒くなる。ただ泣きわめくよりその悲しみはリアルで深い。
 身の回りをいろんな幽霊がうろうろしているファンタジックな世界観だが、人の心の機微については地に足の着いた描写が貫かれており、この良さが子供にもきちんと伝わればいいなと思う。

風景美 8
キャラの古さ 7
子供向け度 3
個人的総合 8


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2020年05月30日

「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」、連続上映継続中

 2016年公開の「この世界の片隅に」は、根強い支持によって、全国のミニシアターで上映が継続し、連続上映は1133日(3年超!)に及んだ。これは、中断日のない記録としては、日本で最長だそうである。
 そうなると、昨年公開の「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」も、ロングランを狙いたいところ。実際、各地のミニシアターで転々と上映が続いており、経過は順調だった。
 しかし、そこへコロナである。緊急事態宣言が全国に発令され、すべての映画館が休業を余儀なくされる。連続上映は途絶えた。

…かと思われたが。

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 なんと、茨木の土浦セントラルシネマズが、無観客上映という意味わからん力技で、記録をつないでいたのである。これは驚き。試験やらスポーツやらではないので、固いことは言わずに、こういう酔狂にはぜひ乗っていきたい。
 現在は、各地で映画館が再開されている。ラインアップを見る限りは、まだまだ通常営業とは言い難い状況だが、まずは営業しているということを喜びたい。
posted by Dr.K at 10:44| Comment(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする