2020年06月21日

ヘアスプレー

 陽気な太い娘が、歌って踊って世の中をハッピーにする映画。
 新開地のパルシネマが、営業再開記念の特別ラインアップとして上映したが、大正解。間引き販売となった座席は完売し、空席があるのに補助席が出るという怪現象が起こった。

 主人公のトレイシーは歌とダンスが大好きな女子学生。いつも見ているテレビのダンス番組に出演することを夢見ている。この番組は、ティーンのアマチュアをオーディションで起用する生放送の番組で、地元のヘアスプレーを作る企業がスポンサーについており、タイトルはここからとられている。
 番組には、月に一度のブラック・デーが設定され、黒人が出演できるのはこの日だけと決められていた。一方、トレイシーは学校で、居残り部屋の黒人たちと、ダンスをきっかけに交流を持つようになる。そして、黒人と白人が一緒にテレビに出演できるよう、デモに参加する。
 これが、1960年代を舞台にした物語ということに愕然とする。今のアメリカを見るとちっとも前に進んだとは思えない。タイムリーな上映を実現させた、館長の慧眼に脱帽だ。
 やがて迎えた、ミス・ヘアスプレーの発表。友人の協力と出演者の機転によって、番組の中で差別の壁が突き崩されていく結末は素晴らしくハッピーだ。そしてこの時、トレイシーはトレードマークだった髪形をやめているのだが、60年代を通り越して2000年代的な見た目になっている。今に続く物語、ということを強調しているのかもしれない。

パワフル度 9
キャラの濃さ 9
テーマ性 9
個人的総合 8
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2020年06月13日

オーケストラ!

 舞台はロシアのボリショイ交響楽団。清掃員のアンドレは、かつては天才的な指揮者だった。80年、共産党の意向に背いてユダヤ人の奏者たちを守ったために、楽団は解散させられ、音楽活動を禁じられたのだ。
 ある日、ボリショイ交響楽団にパリでの演奏依頼のファックスが届く。アンドレはそれを盗み取り、30年前の団員らを結集した偽の交響楽団で仕事を受けることを思いつく。

 ラストシーンの演出が面白い。
 ごたごたを乗り越えて実現したコンサートを、十数分にわたる圧巻の演奏シーンで描写する。しかし、いくら演奏が素晴らしくても、そのままではオーケストラ中継になってしまう。そこで、演奏中の心理の変化を表情で伝えたり、物語の種明かしとなる回想シーンを織り込んだりと、映像が退屈にならないよう工夫を凝らす。さらに、曲の後半では、普通だったら演奏後に描かれるであろう、後日談となる場面をテンポよく挿入していく。未来なのか妄想なのか、一瞬解釈に迷うような見せ方だ。
 しかし、この見せ方のおかげで、演奏が終わった瞬間にビシッと映画を終わることができるのだ。これは鮮やか。年齢の高い楽団員の中で、一人だけ若いメラニー・ロランの美しさも特筆ものである。

混迷度 8
音響 9
爽快度 9
個人的総合 7
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2020年06月08日

若おかみは小学生!

 予想外の感動作として話題になったアニメ映画。児童文学が原作ということで、昭和の幼年マンガのような見た目だが、少なくとも映画に関しては全く子供専用ではない。
 おっこは交通事故で両親を亡くし、「春の屋旅館」の祖母に引き取られる。旅館には幽霊のウリ坊が住みついており、彼にそそのかされて、おっこは若おかみを目指すことになってしまう。
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その時の変なポーズ。昭和の頃にどこかで見たような気がするが、思い出せない(笑)
 旅館での生活は楽しいばかりでは済まず、問題のある客が度々訪れ、おっこは窮地に陥る。ここで、小学生という設定が生きる。おっこがストレートにぶつかっても嘘くさくないのだ。大人には、このような直情的なやりとりはできない。また、おっこは小学生なのでここより他に居場所がない。大人だったら、別の仕事、別の場所を自ら探すという事もあるはずだ。
 特に感心したのが悲しみの表現で、両親を亡くした割には、おっこは旅館に来た時からいきなり元気だ。母を亡くしてふさぎこんでいるあかねの方が、よほど普通に見える。しかし、おっこは立ち直ったのではなく、死を受け入れていなかったのだ、ということが明らかになる。親の布団にもぐりこむ夢とも思い出ともつかないシーンに、背筋が寒くなる。ただ泣きわめくよりその悲しみはリアルで深い。
 身の回りをいろんな幽霊がうろうろしているファンタジックな世界観だが、人の心の機微については地に足の着いた描写が貫かれており、この良さが子供にもきちんと伝わればいいなと思う。

風景美 8
キャラの古さ 7
子供向け度 3
個人的総合 8


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2020年05月30日

「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」、連続上映継続中

 2016年公開の「この世界の片隅に」は、根強い支持によって、全国のミニシアターで上映が継続し、連続上映は1133日(3年超!)に及んだ。これは、中断日のない記録としては、日本で最長だそうである。
 そうなると、昨年公開の「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」も、ロングランを狙いたいところ。実際、各地のミニシアターで転々と上映が続いており、経過は順調だった。
 しかし、そこへコロナである。緊急事態宣言が全国に発令され、すべての映画館が休業を余儀なくされる。連続上映は途絶えた。

…かと思われたが。

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 なんと、茨木の土浦セントラルシネマズが、無観客上映という意味わからん力技で、記録をつないでいたのである。これは驚き。試験やらスポーツやらではないので、固いことは言わずに、こういう酔狂にはぜひ乗っていきたい。
 現在は、各地で映画館が再開されている。ラインアップを見る限りは、まだまだ通常営業とは言い難い状況だが、まずは営業しているということを喜びたい。
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2020年05月03日

パラサイト 半地下の家族

 監督自ら「ネタバレしないで」とパンフレットに書くくらいなので遠慮していたが、映画館の休業により強制的に公開終了となったので書く。

 個人的には、あまり好きなタイプの話じゃない。しかし、こちらの想像をどんどん離れていく驚きがあり、確かに面白かった。これがアカデミー賞とは、審査員は意外に頭が柔らかいな。

以下、ネタバレを含むため注意

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2020年04月26日

間違って録画した映画2本

「ハイジ」

 アルプスの少女が実写映画化。アニメはかなりの話数があったと思うが、映画は駆け足気味ながらすべてがおさまっている。キャストもロケーションも良くて、まあ楽しめた。
 で、見終わってネットで検索したらハイジの顔が違う。いや〜、何度も映画化されていたとは知らなかった。私が観たのは2005年のものだったのか。最新のやつだと思ってたのに。
 結末付近で、お爺さんが、自分の死後のハイジを心配するのが印象的。このバージョン、特におばさんがクズだからなあ。

「美女と野獣」

 エマ・ワトソンによる実写版なら、この前地上波初放送があったはず。見たらやっぱり別のだった。2014年の映画だ。
 ディズニーの作品ではないので、どうやら原作に沿っているらしい。ベルの家族構成が異なっており、兄や妹が大勢いてにぎやかだ。野獣がその姿になった理由も違うし、バラの扱いも異なる。ガストンなんか出てこない。
 最も驚いたのがダンスのシーン。見た目は同じだが意味が違う。ディズニー版では、ベルと野獣がうちとけた結果としてのダンスだったが、こちらは、ベルがダンスを条件に取引を持ち掛ける。この時点で野獣に心を許していないのだ。
 ベル役はレア・セドゥ。ゲーム「デス・ストランディング」のフラジャイルと同様、ミステリアスな雰囲気を漂わせている。

 それにしても、短期間に連続して勘違いするとは。新聞のテレビ欄ももう少し詳しく書いてくれ。
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2020年04月19日

シークレット・スーパースター

 昨年公開されたインド映画で、先日DVDが発売になったばかり。自宅待機の息抜きにいかがですか、お勧めです。

 15歳のインシアは、歌手を夢見る女学生。横暴な父はそれを許しません。一方、母はPCを買い与えるなどして、こっそり娘を応援します。インシアは自分の歌をYouTubeで公開することを思いつきますが、バレたらまずい。そこで、ブルカをかぶった謎の歌い手として動画をアップします。
 動画が話題になり、一人の音楽プロデューサーが目を付けます。落ち目のシャクティは、インシアを売り出すことで逆転を狙います。シャクティを演じるアーミル・カーンがいいですね。ちょい悪、どころかかなり悪(笑)オヤジで、話が急に面白くなります。
 インシアはついに音楽賞の舞台へ。少女が夢をつかむ物語であり、女性の自立を描いた物語でもあり、普遍性のあるテーマはすでに伝わっています。それでも、インシアのスピーチは、すべての観客へのメッセージになっていて、感動的でした。そして明らかになるタイトルの意味。
 エンドロールが流れ出します。80点は付けられる映画だな、と思っていたら、シャクティが割り込んできます。そのMVに唖然呆然。ちょっと泣かせすぎちゃった、勘弁な! と言うアーミル・カーンの照れのようなものが感じられました。素晴らしい。90点にアップします。確かに、インド映画の大スターが出演なのに、踊りがないなんてあり得ないですよね。

普遍性 9
深刻度 9
後味 10
個人的総合 9
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2020年04月11日

サーホー その2

 アクションゲームで、道中のザコ戦に歯ごたえがあり過ぎて、ボス戦が始まるまでに疲れちゃってる、なんてことがたまにある。「サーホー」はまさにそんな感じ。

 冒頭、ロイ・グループの説明が速い(笑) 「バーフバリ 王の凱旋」の上映時に、「伝説誕生」を5分にまとめたダイジェストが流されたが、それに匹敵する情報量だ。力のあるマフィアなのだな、と思ったところでボスがあっさり暗殺される。
 一方、ムンバイでは、警察が謎の窃盗団に手を焼いていた。その捜査に指名されたのが主人公のアショーク。ゴロツキの巣窟を一人で制圧する格闘術、現場を見ただけで事件の真相がわかる洞察力を持つスーパーマンだ。一方で、好みだからという理由で(?)アムリタをチームに入れ、モーションをかけまくる軟派野郎でもある。いつの間に「シティーハンター」がインドで実写化されたんだろう、言っちゃあ何だがよくある話だ。
 しかし、捜査も大詰めとなったところで、大どんでん返し! 唖然としたところでタイトル! もう1時間以上経っているぞ。

 そこからは加速する一方。ストーリーは二転三転し、今こいつ味方だっけ? 敵だっけ? と混乱することもしばしば。これは何度か観ないと理解できそうにない。アクションシーンも極まっており、趣味のスカイダイビングのエクストリームっぷりには狂気しか感じない。そして、シチュエーションを次々に変えて盛り込まれる戦い、そして戦い。クライマックスまでに観客のほとんどが息切れしてしまう凄まじさだ。
 マフィアの抗争を扱った作品だと、悲劇的な結末に終わるものも多いが、「サーホー」の勢いは止まらない。観客は、近未来に蘇った「バーフバリ」を称え続けるしかない。王を称えよ、未来でも称えよ。

圧倒的カリスマ 10
圧倒的アクション 10
圧倒的強引さ 10
個人的総合 8

他の方の「サーホー」レビュー
アジア映画巡礼:ダンスシーンのムービーを紹介いただいてます
Machinakaの日記:ネタバレあり感想。マイケル・ベイ3本分(笑)
posted by Dr.K at 17:29| Comment(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月05日

サーホー その1

 いつの日か、この作品で満員の映画館が沸くのを見たい。心からそう思う。

 「サーホー」は、「バーフバリ」のプラバースが主演するインド映画。近未来都市ワージーを舞台に、マフィアのロイ・グループの跡目争い、それにともなう莫大な財をめぐっての攻防が描かれる。
 3時間にわたる怒涛の映像は、どこを切り取っても演出過剰。一度ではとても書ききれないので、今回は恋愛パートについてとりあげる。

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2020年03月29日

1917 命をかけた伝令

 良い映画だということは伝わるんだけど、なんだかのれない。多くの映画を観ていると、たまにこういうことがある。

 第一次世界大戦のイギリス軍、主人公の青年は、前線に攻撃中止の文書を伝えるよう命じられる。この伝令兵を観客にリアルに体験させる、というのが作品の方針である。
 カメラが主人公を追い続けるワンカット風撮影で、主人公が見聞きしない状況は一切説明されない。主人公に無名の俳優を起用し、キャラクター性を想起させない。この伝令の活躍は史実ではないが、ドキュメンタリー風の抑えた演出がさらなるリアリティを醸し出す。

 まず、ワンカット風の映像だが、メイキングを見ると確かにすごい。ただ、CGと比べては申し訳ないが、戦争もののゲームであれば似たような見せ方のものはあるし、自ら操作している分没入感も強い。三人称の全編ワンカットということであれば、PS4の「GOD OF WAR」もやっていて、素晴らしい効果を上げていた。ワンカット風の映画と言えば、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」もそうなのだが、あちらは、バトンタッチのように被写体をリレーしていく遊び心のある使い方だった。
 そして、主人公の視野のみで説明され、戦況を俯瞰しない物語は、「ダンケルク」と共通する。ただし、ダンケルクは陸海空それぞれの主人公がおり、それらが集約されることでクライマックスが盛り上がる。「1917」の方がはるかにストイックだ。

 結局のところ、私はストーリーラインのハッキリした、娯楽作品の方を好むということらしい。

劇場向け 10
撮影技術 10
風景美 8
個人的総合 5

他の方の注目すべきレビュー
三角締めでつかまえて:「地獄めぐりライド映画」とはよくぞ言った!
モンキー的映画のススメ:撮影が気になって没入してない! 確かに…
posted by Dr.K at 19:55| Comment(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする