2019年11月05日

イエスタデイ

 同僚にすすめられて観たのだが、こりゃ面白いに決まってるわ。脚本のリチャード・カーティスの持ち味が強く出ている。
 リチャード・カーティスと言えば、かつて「ラブ・アクチュアリー」でラブストーリーの頂点を極めた監督。しかし私は一つの疑惑を抱いた。

 主人公のジャックは、売れないミュージシャン。幼馴染のエリーが献身的にマネージャーをしてくれているのも心苦しく、引退を決意する。その夜、謎の大停電で交通事故に遭ったジャック。退院すると、なぜか誰もビートルズを知らないのだった…
 もう予想がついたと思うが、ビートルズの存在しない世界で、ジャックがビートルズの曲を演奏してヒットを飛ばすことになる。転生もののラノベか、はたまた〈なろう小説〉かという出だしだが、もっとしっくりくるたとえを私は知っている。「ドラえもん」の「もしもボックス」だ。
 思えば、「アバウト・タイム」の、クローゼットにこもって時間を遡るという仕掛けも、引き出しのタイムマシンとどこやら似通っているではないか。リチャード・カーティス、実は「ドラえもん」のファンなのじゃないか

 例によってSF考証はテキトーだが、ビートルズが存在しない世界では、オアシスも存在しない。なるほど。でもローリング・ストーンズは平気というあたりも笑える。エド・シーランが本人役で出ずっぱりというのも面白いところだ。
 「イエスタデイ」は、異世界ものの一種ではあるが、時間は遡らない。つまり、ビートルズの曲が今の時代に売れるか? という問題になってくるのだが、オリジナルに忠実であろうとするジャックに、周囲が難癖をつけるのがまたおかしい。現代の音楽業界に対する風刺が効いている。

 荒唐無稽な設定から始まって、恋愛中心の物語へシフトし、多幸感のある結末へと導くカーティス節は健在。ビートルズにそんなに詳しくなくても大丈夫。「ジョーカー」でやさぐれた心を癒してくれる貴重な一本だ。

ヒロインの可愛さ 9
エド・シーランの好感度 9
主役のショボさ 8
個人的総合 8
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2019年11月03日

ジョーカー

 おさらいのつもりで「ダークナイト」を観てから行ったが、その必要はほとんどなかった。

 稀代の悪役、ジョーカーがいかにして誕生したのか。アメコミでは、科学薬品の溶液に落ちたというエピソードが描かれ、「ダークナイト」では、父親からの虐待によって口を割かれたと語られる。だが、この映画にはそのような劇的な場面はない。
 主人公のアーサーは、母親を介護しながら暮らす貧しい独り身で、コメディアンになる夢があるがその才はなく、発作的に笑ってしまう精神疾患に苦しんでいる。そして、オヤジ狩りに遭ったり、仕事をクビになったり、酔った会社員に因縁をつけられたり、自分の出自を知ったりすることで、どんどん追い詰められていく。
 一つ一つの不幸は、突飛なものではなく、誰の身にも起こりうる事だ。そのリアリティがたまらなく恐ろしい。
 そして、アーサーが一線を越えたとき、ジョーカーの姿で繰り出したとき、信奉者からの喝采を浴びたとき、そこには痛ましさと同時にカタルシスが確実にあった。観客は仮面の群衆の一人と同じ気持ちになっている。
 この映画を「気持ち悪い」「つまらない」と切り捨てる感想は全く正しい。その人はきっと、あちら側に身を置くことの危険さを本能的に察して拒否したのだと思う。

(注:以下に結末を含むネタバレあり)

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2019年10月26日

エセルとアーネスト ふたりの物語

 原作はレイモンド・ブリッグズの絵本。「スノーマン」や「風が吹くとき」で知られる作者が、両親の〈普通の人生〉を綴った物語です。以上のことを全く知らずに、映画を観てしまったんですけどね。

 まずはプロローグ、レイモンド(本人)が絵本にとりかかる姿です。実写で始まったので、映画を間違えたかと思いました(笑) そして本編、絵本のような温かみのあるアニメなのですが、これはびっくり、乗り物や背景が3DCGなのです。この画風で立体化できるとは、とかなり感心しました。
 物語は、二人の生活を、全く奇をてらうことなく淡々と描写していきます。しかし、イギリスから見た20世紀の歴史というのはなかなか新鮮。第二次世界大戦も、日本から見たものとはだいぶ違います。市民の目から見た戦争、という点でも「この世界の片隅に」と非常に近しいものを感じますね。また、日本では第二次世界大戦が最後の戦争となっていますが、イギリスでは続けて朝鮮戦争への出兵があり、平和になったわけではない、ということにもハッとさせられました。
 結末付近では、二人の老いと死を妥協のないリアルさで描いており、フィクションとして美化しない強い意志を感じました。最後に冒頭の実写に戻ってくると思っていたんですが、それもなかったのは、レイモンドの創作がまだ続くことを示しているのかもしれませんね。

映像技術 9
リアリティ 9
「片隅」類似度 9
個人的総合 7
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2019年10月13日

海よりもまだ深く

 このたびの台風で、被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。

 是枝裕和監督の新作公開に合わせた、テレビ初放送。よりによって、台風の前日という設定の物語であり、臨場感が半端ない。
 阿部寛が主演ということもあり、2008年の「歩いても歩いても」と雰囲気がそっくり。さらに、樹木希林が元気だったので、同じ頃の映画かと思ったら、2016年の作品と知りびっくり。メジャー監督となってから、再びこんなのを撮れる人はそういない。
 主人公は、小説で一度は賞を獲ったものの、その後は鳴かず飛ばずの男。取材と称して興信所に勤めているが、まじめに働いているとは言い難い。別れた妻にも未練たらたらで、月に一度、息子に会うのが何よりの楽しみだが、その時に渡す養育費にも事欠くありさま。せっかくお金を得ても、競輪ですってしまうなど、とにかく情けなくどうしようもない男だ。物語は、台風によって若干の展開を見せるのだが、彼が劇的に変化することはない。こんなはずじゃなかった、という人生を母役の樹木希林が力強い諦観で包み込む。
 「そして父になる」や「海街diary」のようなハッキリした話は他の監督でも撮れるかもしれないが、このぼんやりとしてしみじみとした味わいは、他では代えがたいものがある。是枝監督には、時々でいいので、今後もこの路線の作品をお願いしたい。

生活感 10
キャスティング 10
盛り上がり 1
個人的総合 7

他の方の注目すべきレビュー: 忍之閻魔帳 モンキー的映画のススメ
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2019年10月03日

「ぼくらの七日間戦争」の予告編が嫌な感じ


 年末に公開予定のアニメ映画の予告編。
 GAGAと角川がタッグを組み、なつかしい作品を現代の設定に改めてアニメ化、声優には人気俳優を起用、と大ヒットを狙っている気配プンプンだが、いや〜、これは嫌な匂いがプンプンするぜ。
 まず、水色や白のテロップ。そして強調される入道雲。ものすごく細田守っぽい。
 そして、気合の入った風景だけのカット、疾走感のあるロックの歌。新海誠の「君の名は。」とそっくりだ。
 売れた作品の表面をなぞって一丁上がり、これは下品ですわ。「君の名は。」の次を狙ったアニメはいくつもあったけど、いずれももう少しオリジナリティがあったぞ。恥を知れ。
 こんな批判を覆すくらい、実際の中身は面白いという番狂わせに期待する。宗田理の原作は名品なんだからね。
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2019年09月25日

プロメア

 5月に公開された、知名度もそれほどないアニメ映画が、根強い支持で9月の今もやっている。観れば納得、なるほど、これは他では代え難い味のある作品だ。ただ、オッサンの私にはちょっとついていけなかった。

●前日譚付き上映
 面白くなりそう、と思ったところで急にエンディング。おっと、これは前日譚付きの上映だった。もともとは特典映像だったものを、ロングランに伴って、全員に公開するようにしたものらしい。お得と言えばお得なのだが、繰り返しになる部分もあるし、本編に入るまでに都合3回会社のロゴを見なければならない。

●激しい映像
 紫がかったコントラストの高い絵柄で、動体視力の限界を無視した勢いでカメラが動きまくる。何がどうなっているのか、見失うこともしばしば。お世辞にも親切な映像とは言えない。のれた人にとってはとてつもないドラッグムービーになり得る。

●勢いだけのストーリー
 人類対能力者、そして地球の破滅という、古典的なSF物語をベースにしているが、とにかくビジュアルのインパクトに全振りなので、物事はすべて勢いだけで解決する。ゲームとかスポーツとか、もっとどうでも良い対決を題材にすれば、あまり違和感なく観れたのに、という気がする。キャラクターも掘り下げるつもり0で物足りなかった。

●想定外のファン層
 いくら映像がスタイリッシュと言っても、漢祭りのロボットアニメ。観客はあらかた男だろう、と思っていたが、意外にも女性ファンが多い。タイガー&バニーあたりと間違えてやしないか。それとも松ケンのファンなのか。

●熱演の声優陣
 主人公ガロ役の松山ケンイチが大健闘。叫ぶセリフが多いのに、プロに負けないテンションでやりきった。クレイの堺雅人も豹変するキャラを見事に演じている。逆に違和感があったのがルチアで、ちゃんとベテラン声優がやっているのに声を作りすぎである。

 こういう先鋭的なビジュアルの長編は非常に貴重なのだが、スパイダーバースに数か月先を越されてしまったのが残念だ。

声優の人選 8
オリジナリティ 9
親切さ 2
個人的総合 5
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2019年09月15日

E.T.

 新開地の名画座パルシネマにて、「ジョーズ」との二本立てという素晴らしい企画があったので観てきた。実際に劇場で観た経験があるのはシニアに近い世代となり、私はテレビでやってたのを観た世代。もっと若いと、USJのアトラクションで知ってる、という感じになるのだろう。
 ただなつかしいだけでなく、昔の記憶がいかにいい加減か、痛感する体験となった。

●実は怖い映画
 他の映画を観に来たとき、「E.T.」の予告編が流れた。封切り当時のものだと思うが、まるでホラーかサスペンスかという怖い見せ方で驚いた。本編の始まり方も、エイリアンに匹敵する不気味さであり、実は怖くないという落差でインパクトを与えるという意図が見えた。

●E.T.の超能力
 自転車が飛ぶ有名なシーン、クライマックスのものは憶えていたが、中盤のものを忘れていた。こんなに早く飛んだっけ? と驚いてしまった。
 他にもE.T.は宇宙人ならではの超能力を使う。ものを動かす、花をよみがえらせる、けがを治すなどである。ところが、E.T.と少年が感覚を共有することはすっかり忘れていた。これによる学校での騒動はほとんど覚えがなかった。

●実はリアルな映画
 CGがない時代の作品なので、E.T.は着ぐるみやロボットである。しかし十分リアルに見えた。
 CGと比較すると、実物がそこにある分、役者は演技がしやすい。また、E.T.がものにぶつかったり、部屋を散らかすシーンがあるのだが、これも実物で撮るので自然である。CGでは周囲のものに影響しないので、こういうシーンでは特別な工夫をしなければいけない。
 川で倒れているE.T.は本当に生き物の死体に見える。これもCGではあまりお目にかかれないリアルさだと思う。

●科学者
 E.T.の調査に来た科学者たち。恐ろしい敵として描かれるのだが、この中に一人少年の理解者がいる。あまり説明もないのだが、過去に同じ宇宙人と遭遇し、それがきっかけで科学者になったのだろうと思われる味わい深いオッサンだ。少年も将来こうなるのかな、とか、母と距離が近いけど付き合ったりするのかな、とか、いろいろ想像がふくらむ。

●ヨーダ
 ハロウィンの場面で、ヨーダが登場する。E.T.が仲間と思って話しかけるコメディシーンとなる。これが全く記憶になかった。テレビ放送でカットされていたのだろうか。あるいは、当時の私がまだ「スター・ウォーズ」を知らなかったために印象が残らなかったのかもしれない。

 子供向けということなのか、変にひねったところがなくストレートに話が進む。こういう洋画が今は本当になくなった。また、「ジョーズ」もそうだが、事件が終わると、後日談などなくあっさり終わるのが昔の映画らしくていい。古い映画を見返すことは少ないが、これからは時々やってみようか。

リメイク必要度 1
名曲度 9
自転車アクション 8
個人的総合 7
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2019年08月23日

グリーンブック

 ちゃんと面白い。何よりもそのことを評価したい映画です。

 1960年代の南部アメリカを舞台に、根強く残る人種差別を描いた作品。しかもアカデミー賞作品賞となれば、まじめに観ないと、と余計なプレッシャーを感じてしまうのも無理はありますまい。
 しかし実際は、軽快で観やすい内容。主人公のトニーは、無学で乱暴なイタリア系白人。クラブの用心棒をしていましたが、クラブが改装となった休業中に、運転手の仕事を頼まれます。依頼主のドナルドは、黒人ながら世界的なピアニスト。ここでは、白人の方が庶民で使用人、黒人の方が教養ある富豪、と立場が逆転しています。トニーは普段見下していた黒人とは勝手の違う相手に四苦八苦。そのちぐはぐさが笑いを生んでいます。フライドチキンのシーンやピザの食べ方が印象に残るあたりも、娯楽性の高い絵作りと言えますね。
 二人は南部への演奏旅行で、北部では表立っていなかった差別的な慣習に触れ、徐々に同志となっていきます。トニー自身がもともと差別意識を持っており、決して正しい奴ではありません。そのことで、説教臭くなく差別の非道さが伝わってきます。この雰囲気は、「最強のふたり」とちょっと似ています。
 声高にテーマを訴えず、個人的で心温まる結末に導いていく、品のいいエンターテイメントとなっていました。下品この上ない「メリーに首ったけ」と同じ監督とは思えませんね! お見事です。

面白さ 7
説得力 8
後味 9
個人的総合 8
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2019年08月16日

天気の子

 音と映像が心地いいので騙されますが、ちょっとこれは乗れませんでした。

 まず冒頭、陽菜が登場するやいなや、雲の向こうへぶっ飛びます。ファンタジー性の強い話なのだな、という第一印象です。
 ところが一方、帆高は歌舞伎町で地べたを這うようなホームレス同然の暮らし。意図的な対比なのは明白ですが、バニラトラックをはじめとした実在ブランドの露出により、リアルが勝ちすぎてバランスがおかしくなっています。
 おかしいと言えば、構成もそう。彗星が落ちる瞬間に向かって、緻密に組み立てられていた「君の名は。」と異なり、こちらは何かと行き当たりばったりです。帆高が子供だからしょうがないんですが、主人公の意志に任せたらストーリーが散らかってしまったという感じです。大人として状況を俯瞰せず、帆高に目線を合わせられるかどうかが、このストーリーに乗れるかどうかの分かれ目と言えます。

注:以下は結末に触れています

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2019年08月13日

旅猫リポート

 いつも映画のテレビ放送に興味を示さない母が、かじりついて見てた。
 実は私も、映画館で予告となるチラシを手にした瞬間から興味津々だった。物語に惹かれたのではない。主演のネコのたたずまいが、家に遊びに来るお馴染みのネコにそっくりだったのである。
 映像で動いているのを観ると、その感覚はますます強くなった。「世界ネコ歩き」をはじめ、ネコ番組はけっこう観ているのに、こんなに親近感のわくネコは初めてだ。

 病気で余命を宣告されたサトルが、飼い猫のナナをあずけるために、各地の旧友を訪ねるというストーリー。それぞれの旧友とのエピソードが連作の短編のようになっており、サトルの過去についてもじょじょに明かされていく。有川浩の原作らしいか進め方だと思った。
 さて、この映画では、ペットたちは人語を解しており、吹き替えによってしゃべるという演出になっている。同じような設定の物語はたくさんあるのに、なんだか違和感があった。動物の行動に作られた感じがないのに、それに作られた声が乗るせいだろうか。ナナ役の高畑充希のセリフがハッキリし過ぎているからだろうか。一部の場面で鳴き声や吠え声にセリフが重なっているせいだろうか。理由はよくわからない。

 サトルとナナだけの場面が多いので、画面をもたせるのにはかなりの実力を要する。ナナの演技が素晴らしいのに、サトル役の福士蒼汰が完全に負けているのはご愛敬。

人演技力 5
ネコ演技力 10
予定調和度 8
個人的総合 5
posted by Dr.K at 12:16| Comment(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする