2017年02月21日

ドント・ブリーズ

 主人公は、空き巣に手を染めている若者3人。次の標的となる屋敷は、盲目の老人が一人で住んでいる。盗みは楽勝かと思われたが、この老人が元軍人で事態は一変。彼らは生きて逃げられるのか。

 このような、アイデアが目を引くホラー映画は要注意だ。勢いで撮って完成度が低いものがけっこうあるからだ。だが、「ドント・ブリーズ」は心配ご無用。よく出来ていて感心しきりだ。文句があるとすれば、よく出来過ぎていて、映画の枠をはみ出すような恐怖がないということくらいだ。
 観客の反応が、この映画の質を雄弁に物語る。休日の映画館は、カップルも多く、親子連れさえいて盛況だった。では上映中、館内は悲鳴に包まれたか。そんなことは全くなかった。この映画、化物も出なければ、グロい死に様も控えめで、絶叫ポイントには乏しいのである。逆に館内は、水をうったような静寂ぶりであった。主人公たちが息をひそめて老人から隠れるとき、観客もまた息を殺して注視する。そんな緊張感が館内を支配し、独特の一体感を生んでいたのである。家で一人で観たのではこうはならない。貴重な経験をさせてもらった。
 これは映画が観客の心理を見事に操っている証左で、カメラワーク、小道具、タイミングのいずれもが的確に決まっていればこその結果と言える。屋敷という限られた舞台を生かした作りは、ゲームのステージ作りにも大いに参考になりそうな気がする。

 個人的には、これで終わり、今度こそ終わり、と思わせつつなかなか終わらないので、終盤だれてしまったのが残念。まあこれはホラーのお約束みたいなものだが。なお、日本人からすると、主人公は共感できない犯罪者たちだが、デトロイトの低所得層という設定は超リアルで、アメリカ人が見るとだいぶ違うのかもしれないな。

ヒロインのしぶとさ 8
老人のしぶとさ 10
エンターテインメント性 7
個人的総合 6
posted by Dr.K at 22:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月18日

セトウツミ

 これを映画館でやろうという胆力がそもそもすごいわ。

 原作は、瀬戸と内海という二人の高校生がただダベっているだけのマンガ。これを何らスケールアップすることなく、そのまんま実写化した。映像的な見どころなんてはなっから存在しない。
 だがこれが面白い。映画だからといって長編向けのオリジナルストーリーなどを作らず、連作の短編としたことで、テンポよく内容が積み重ねられていく。連続ドラマを一気に見せられるような感じだが、キャラクターを十分浸透させることができていた。
 瀬戸と内海は、将来お笑いにでも進むんじゃないか、という軽快な掛け合いを見せる。これにプロのお笑い芸人などをキャスティングせず、菅田将暉と池松壮亮にやらせたのがまた良い。どちらも映画やドラマに出まくっている俳優だが、セトウツミではさえない素人の雰囲気を醸していて素晴らしい。
 この二人、「デスノート」の新作映画でも共演しているが、そちらではほとんど良い評判を聞かない。やはり役者も使い方次第ということか。

映像美 2
興奮度 3
センス 8
個人的総合 6
posted by Dr.K at 14:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月07日

ローグ・ワン

 絶賛している人も多い「ローグ・ワン」、個人的にはもう一歩だった。作中の反乱軍と同じで、スター・ウォーズファンも一様ではない。

 まず良いところ。外伝やスピンオフといった作品にありがちなショボさがない。宇宙に地上に、大規模戦闘シーンで盛り上がれる。
 ストーリーの狙い所がいい。EP4で、なぜデス・スターに弱点があり、設計図が反乱軍の手に渡っていたのかが明かされる。EP1〜EP3が、ダース・ベイダーがいかにして誕生したかという物語であったことを思うと、スター・ウォーズは結局のところ最初の作品であるEP4に回帰する運命にあるのかもしれない。
 また、EP4のキャラの扱いがいい。ダース・ベイダーは活躍するものの、その登場はわずか。レイア姫もちょっとだけ出る。キャラを出しまくればそれだけで売れるはずだが、「ローグ・ワン」はあくまで独立した映画。品性を損なわない範囲で人気キャラを出すバランス感覚がなかなか見事だ。

 一方で気に入らないところ。
 これはもう何の客観性もない個人の好みだが、スター・ウォーズにアジア人はいらない。私にとってのスター・ウォーズはハヤカワの翻訳小説と並ぶようなSFの古典なのであり、登場人物は西洋人と宇宙人だけでいいのである。「ローグ・ワン」では、座頭市のごとき盲目の戦士が活躍するが、彼一人だけが東洋武術の所作で浮いている。時代劇をモチーフにしてみたが、剣道とかよくわからないので、ライトセイバーを派手に振り回してみました、というアバウトさがスター・ウォーズのリアリティレベルなので、マッチしないのである。
 上記とも関係するのだが、「ローグ・ワン」ではリアリティが重視されていて、子供の妄想のような意匠の面白さがない。私がスター・ウォーズに期待するのは奇想天外なメカや宇宙人、そして風景だ。例えばEP7では、謎のパンだけでも面白かった。一方、「ローグ・ワン」は物語に関係のない描き込みが少なく、そういう遊び心が乏しかったように思う。デザイン的にも、EP4の直前という設定なので新規のものは出しにくく、既視感のあるものでまとめざるをえない窮屈さがあった。
 全スター・ウォーズの中でもトップクラスのきっちりしたストーリーを持つが、最も夢のない作品になってしまったように思う。

恒例のオープニング なし!
ファンサービス 8
予備知識必要度 6
個人的総合 6

他の方の注目すべき「ローグ・ワン」評
島国大和のド畜生 …なるほど、ガンダムで例えるか
ジョニーリンゴ …ターキン再登場の仕組み
posted by Dr.K at 13:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月18日

手紙は憶えている

間違っていたなら教えてください 今のうちに

 こうの史代が、「この世界の片隅に」の巻末に書いた言葉です。戦後70年が過ぎ、当時のことを憶えている人がいなくなっていく。その危機感が表れています。
 さて、映画「手紙は憶えている」もまた、ぎりぎり今だからこそ成立した物語です。主人公ゼヴは、アウシュビッツを生き延びた老人で、現在は介護施設で暮らしています。ゼヴは、同じ施設のマックスから一通の手紙を託されます。アウシュビッツで私たちの家族を殺したナチスに復讐せよ、手紙にはその手掛かりや方法までもが書いてありました。こうしてゼヴの旅が始まります。
 ゼヴは90歳の老人ですから、派手なアクションなど皆無。しかし、物語は極めてスリリングです。復讐相手の候補は、マックスの調査であらかじめ4人にまで絞られているのですが、真実にたどりつくまでの綱渡りがすごい。何しろゼヴは認知症で、朝起きると自分がどこにいるかも忘れてしまうのです。そのたびに手紙で思い出すので、まさに「手紙は憶えている」けど自分は忘れているわけです。さらに、どうにかたどり着いたとしても、相手が存命かどうかさえ危うい年齢なのです。
 予告では、〈ラスト5分の衝撃〉などと煽っていますが、伏線が丁寧に貼られているので、あらかじめ答えが見つかる人も多いでしょう。しかしそれによって本作の値打ちが下がってしまうことはなく、物語が組み上がる快感を十分に楽しむことができます。
 すべてを現在の映像のみで通し、回想シーンで説明や種明かしをしない演出も見事。この物語はフィクションですが、戦後が今の現実に続いていることを強く印象付けています。

スリル 10
衝撃  7
出演者平均年齢 最高齢
個人的総合 7
posted by Dr.K at 11:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月05日

この世界の片隅に その3

 観た後に何も残らない、という映画はあまり評価されないかもしれませんが、観た後に何かが残り過ぎる映画、というのもそれはそれで困りものです。「この世界の片隅に」が私の中心からなかなか離れてくれません。
 結果として、ネットの関連記事を読み漁って時間を費やすことになったのですが、その中から特に優れた論考をいくつか紹介します。

 すずさんが絵を描く場面について、アニメとマンガの両方を詳細かつ具体的に追った、圧巻の分析。何度も見直して確認したいけれど、それにはブルーレイの発売を待たねばならない!

 すずさんではなく、その右手が主役だとする新たな視点を提示。私は、エンドロール最後の「バイバイ」について、そこまでの流れと不似合いな気味悪さを感じていたのですが、なるほど、この考え方なら違和感がないですね。

続きを読む
posted by Dr.K at 22:03| Comment(3) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月26日

この世界の片隅に その2

 映画を見、マンガを読んで、さらに映画を見ましたが、「むむぅ」とか「ふへぇ」とか、言葉にならない感嘆しか出ません。

 一般に、マンガから映画を作る際は、テーマとなる部分を抽出した上で、内容を再構成します。ですので、キーとなるビジュアル以外は、マンガと別のものになります。メディアが違うのですから、それが普通です。
 ところが、「この世界の片隅に」は異常です。原作は上中下の3巻から成るのですが、特に上巻については、1コマ1コマ映画と比べたくなるくらい、忠実に再現されていて驚きます。いや、再現なんてもんじゃない。マンガでは表現できない音や動きの部分について、想像以上の補完を見せてくれるのです。

 さらにこのマンガ、映画には全く向かない形式なのです。すずさんの日常を描き、短いページでオチをつけていく。戦時下であることを除けば、「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」のようなマンガなのです。さらに、マンガはかなり自由で実験的。隣組の歌だけで一話消化したり、料理を説明するだけの回があったり、サイレント形式になったり、いろはがるたの回もありました。これらをほとんど端折ることなく組み込んで、映画を成立させているのはとんでもないことです。
 映画の時間は限られています。ですので、マンガから重要なエピソードをかいつまんで…となるはずです。しかし、「この世界の片隅に」は、日常の積み重ねこそが肝であり、本筋とサブストーリーというような構造がありません。結果、映画では詰められる限り詰め込むという方法になりました。初めて見たときは気が付かなかったのですが、マンガを読んでから見ると、テンポが早く感じます。マンガでののんびり感覚から一転、映画は怒涛の勢いでエピソードを駆け抜けます。
 同じ戦時中を扱ったアニメということで、「火垂るの墓」がよく比較の俎上に上っているようですが、むしろ同じ高畑監督の「ホーホケキョ となりの山田くん」こそ比較の対象とするべきではないでしょうか。

 一方で、マンガと異なる部分もあります。白木リンをめぐるストーリーは、その多くが削除されています。このような場合、多くの映画では、削除された部分が気にならないように、他の部分を調整しています。ところが、「この世界の片隅に」は違います。破いた手帳や、口紅など、削除したストーリーにまつわるアイテムがそのまま残っており、小さな謎として気にかかるのです。
 片渕監督は、「原作をぜひ読んでほしい」と色々なところで言っています。おそらくこれは、そのための仕掛けなのでしょう。私はまんまと引っかかり、マンガによってわかったことがいくつもありました。

 エンドロールで描かれる後日談が、多くの人を感動させています。数枚のラフなイラストです。これをアニメにしなかったところにも、こだわりを感じます。マンガにない物語は本編に含めない。多分そういうことなのでしょう。
 続く、クラウドファンディングの支援者リストでは、ようやく下半分の画面で描かれる物語を追うことができました。一回目の鑑賞では、つい自分の名前を探してしまって、下が見られなかったものですから。
posted by Dr.K at 22:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月19日

この世界の片隅に その1

 この映画で、クラウドファンディングというものに初めて参加しましたが、やった甲斐がありました。見事な完成度じゃないですか。

●テアトル梅田へ
 公開以来、あまりに絶賛の声が大きいので、恐る恐る映画館へ。酷評されるのは悲しいですが、誉められすぎというのもそれはそれで怖いものです。映画館は、一人で来ている人が多いように見えました。年齢層は、アニメにしては高めです。

●地味な立ち上がり
 映画が始まり、最初の感想は、あれ、この程度か、でした。原作に近づけたのか、描線は少なくへろへろで、色彩も淡い。物語も非常に地味です。
 ですが、この地味さが効くんですね。日常にじわりと浸透していく戦況の不気味さが、抑制された筆致で描かれていきます。

●強烈な演出
 片渕監督の前作、「マイマイ新子」は、物語としてはかなり入り組んでいたのですが、ビジュアルに関してはほとんど奇をてらわず、世界名作劇場のごとき安定感がありました。ところが、「この世界の片隅に」は違います。先鋭的なビジュアルによる演出が随所に差し込まれています。
 空襲シーンでの音響には鳥肌が立ちました。爆撃だの、銃撃戦だのは、他の映画でいくらでも観たはずですが、いままで経験したことがないくらい真に迫っていました。それが、音の素晴らしさによるものなのか、私の感情移入のせいなのか、いまだに判断がつかないでいます。

●力強い結末
 ↑などと書くと誤解を招きそうです。地味な始まりの物語は、終わりもやはり地味でした。しかし、観客は日常を取り戻すまでの経緯を見ていますから、これ以上頼もしい結末はないのです。感動したとか、面白いとか、そんな感想にはちょっと違和感があります。観てよかった、というのが私にはしっくりするでしょうか。
 通常のエンドロールの後は、クラウドファンディングでの支援者の名前。大変な人数ですので、間延びさせるくらいならカットしてくれてよかったのですが、出資への特典でしたので律儀に流してくれます。正直、これだけの映画を完成させてくれれば他の見返りはいらないです。

 映画を観終わり、いくつかの疑問が残りました。実は、原作との違いを気にして映画が楽しめなかったら損だと思い、マンガを買ったまま封印してありました。これから読んで確認し、その謎を解こうと思います。

一見の価値 10
音響    10
のんの起用 9
個人的総合 10
posted by Dr.K at 18:15| Comment(2) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月07日

ソーセージ・パーティー

 今まで、当ブログで記事にしてきた映画の中で、人を選ぶ問題作No.1の座は長らく「日本以外全部沈没」だったのだが、ついにその記録が更新される時が来た。悪いことは言わない。人と行くのならこの映画だけはやめておきなさい。CGのソーセージがかわいいから、などという理由で観たがっている子供や女性がいたら全力で止めるべきである。

 物語は、スーパーの商品が人格を持ってわいわいと下ネタを言い合う世界観で始まる。人に買われ、外に出ることができればそこは天国だと彼らは信じている。だが実際は、食料品であれば料理され食われるのが真実。それを知ったとき、阿鼻叫喚の地獄絵図が始まる。

注意:以下にネタバレ含む
続きを読む
posted by Dr.K at 21:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月19日

映画 聲の形

 マンガは最初だけ知っており、また、製作が京アニであることから、TVシリーズが放映済みでその完結編ではないか、と誤解していた。実際はこれが初の映像化である。
 「君の名は。」効果か、カップルの観客が多かったが、上映が終わった館内は静まり返っていた。そりゃそうだ、見て楽しくなれるストーリーじゃない。心理描写中心の、考えさせるドラマだった。

 主人公の将也は、小学生時代に、耳の聞こえない硝子をいじめた。硝子がいかにハンデを克服するか、そういう話ならこれまでにたくさんあった。一方この映画は将也の側に視点を絞り、彼の贖罪と彼への許しを描くことに挑戦していた。
 だが私にはしっくりこなかった。

注:以下にネタバレを含む

続きを読む
posted by Dr.K at 21:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月18日

ゴーストバスターズ

 主人公チームを全部女性キャストにとっかえたリブート映画。洋画で女性キャストとくれば美女が勢ぞろいするもんだ、という事前の予想をうらぎって、本当にさえない女たちで驚いた。さえない男たちがゴースト退治で立ち上がっていく旧作を、意外にまじめになぞっているようだ。ただ、旧作のファンに気を使ってか、どうも中途半端な印象だ。
 例えばオープニング。幽霊騒ぎが起こり、お馴染みのテーマ曲がかかって盛り上がりそうになるが、なぜか途中で切られる。
 また、旧作の主要キャストが何人もカメオ出演するのだが、前作と関係がない配役のため、別にそこで出なくても、と思ってしまう。でも黒人はよかった。旧作で4人目のゴーストバスターズとなった彼、とりあえず白人ばかりだと人種的にあれなので一人足しときました、というテキトーなキャラだったのだが、今回もはずされることなく出演しているのは嬉しい。
 そして、肝心の新ゴーストも魅力に乏しい。個人的にはオープニングの女幽霊がとても強そうで貫禄があったので、こっちをボスにしてほしかった。中盤の悪魔っぽいゴーストは特に陳腐。街を襲う巨大ゴーストを、ねぶただの竹馬大道芸人だのお祭りっぽく演出したのはなかなかうまかったが、全体的には平凡だった。
 女性ばかりのゴーストバスターズにあって、ただ一人の男性であるケヴィン。見た目だけよく、受付もろくにできない無能だが、こういうキャラが後で意外な活躍をするんだよね、と思っていたら何にもせず終わった。おいおい。と思ったらエンドロールで大活躍。演じたクリス・ヘムズワースにもう二度とまともなイケメン役がまわってこなくなるんじゃないかと心配になるインパクト。次点は、ケイト・マッキノン演じるホルツマンの二丁拳銃か。これもインパクトがあってクールだった。
 エンドロール後の内容は、チャンスがあったら続編を、という雰囲気だがこれも控えめで中途半端。リブートを作るのに思い切りは大事だな、と痛感させられる。

美人度 4
ギャグ 4
ドラマ性 3
個人的総合 5

posted by Dr.K at 21:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする