2025年02月16日

野生の島のロズ

 ロズは、万能のサポートロボット。誰かに購入され、出荷されたのだが、荒天で無人の島に漂着してしまった。仕方なく動物とのコミュニケーションを試みるが、仕事を与えてくれる者はいない。拾った卵が孵化し、ロズはこの雛を育てることにした。

●抜群の始まり
 島の動物たちはかわいいデザインで描かれるが、その生き様は殺伐としており、ギャップが面白い。始まったばかりなのにロズが破壊されそうで心配になった。言葉が通じなくてコミュニケーションが困難、という状況も新鮮でいい。
 学習機能によって、ロズは動物たちと話せるようになる。これによってストーリーが進展するが、以降はやや普通に感じてしまって惜しいと思った。

●素晴らしいビジュアル
 蝶の大群や、雁の飛び立つシーンなど、スケールの大きな見せ場があり、スクリーンで観るに値する。2Dと3Dを併用した美術とのことだが、境界を全く感じさせない馴染んだ表現だった。アクションの迫力もかなりのもので、退屈する暇もない。

●予想外の感動系
 ドリームワークスと言えば、やはり「シュレック」。鋭い風刺を含んだギャグが印象深い。ところが、スタジオ創立30周年記念となる「ロズ」は、正統派の感動作だったのが意外だった。
 主人公が母代わりになるストーリーということもあり、子連れのお母さんを大いに泣かせていた。一方、ロズが母になった感想を聞かれて「重い責任」と答えるところは一番笑いをとっていた。

注:以下にネタバレを含む

続きを読む
posted by Dr.K at 23:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年02月09日

動物界

 PG12となっていたため、怖い映画かと思っていたが、そうじゃなかった。

 人間が徐々に動物になっていく奇病が発生、政府は患者を〈新生物〉として施設に隔離している。フランソワの妻も病気にかかり、南仏の施設へ移されることになった。フランソワは息子を連れて施設近くの村へ引っ越す。ところが、移送中の病院の車が事故を起こし、積んでいた〈新生物〉たちが逃げてしまった。フランソワは行方不明になった妻を探しはじめる。

 手塚治虫で数々の〈変容譚〉に魅せられているので、観て良かったと思えた一本。
 フランソワの息子エミールは、自分も動物化していることを悟り、動揺する。動物化か進むと、人間性が失われていくのだが、その兆候となる出来事が特徴的だった。力が増し、運動能力が向上する一方、自転車に乗れなくなるのだ。しゃべれなくなる、筆記ができなくなる、などの表現なら他の作品でも見たことがある。フランス人には、自転車に乗れてこそ普通の人、という感覚があるのだろうか。
 この病気、特定の動物になるのではなく、人によって、タコに鳥にカメレオン、と脈絡なく変化するので科学的なリアリティがない。しかし、ファンタジーなればこそ、比喩的な効果を発揮する。例えば、移送前の妻は、毛むくじゃらの姿はさておき、ぼんやりして言葉が通じない様子だった。まるで認知症のようであり、施設も介護施設を想起させるところがある。一方、エミールの変化は、父に明かせない秘密を抱えることからも、思春期をビジュアル化したようなもので、物語の結末も、親離れ子離れを描いているように見えた。
 異質なものを排除し続ける〈人間界〉を、冷ややかに見下ろすような作品だった。

新生物デザイン 8
手塚想起度 8
ホラー度 4
個人的総合 6
posted by Dr.K at 00:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年02月01日

アンダーニンジャ

 雲隠九郎(山崎賢人)は、現代を生きる忍者組織の一員。新たな〈忍務〉は、学生として高校に潜入、抜け忍によるテロ組織〈アンダーニンジャ〉を見つけ処分せよ、というものだった。

 原作のマンガは、ギャグも豊富なゆる〜い日常描写と、残虐表現に満ちた戦闘描写のコントラストが独特の味になっていた。映画では、そこに福田監督お得意の内輪ギャグが追加されたために、バランスが崩れ、前半は特にテンポが悪い。結果として、油を入れ過ぎた二郎系ラーメンのように、人を選ぶ作品になっている。しかし、レビュアーの間で特に評判の悪い〈押し入れコント〉の場面でも、劇場ではそれなりに笑いをとれていた。これまた二郎系と同じように、好きな人は好きなのだな、と感じた。
 後半はアクションの連続、しかも期待以上での出来で、どの対決も面白かった。ただ残念だったのはBGM。予告編では、Creepy Nutsの曲がかぶさっていて「おおっ」と思ったのだが、本編で使われなかったのだ。この曲は主題歌なのでエンドロールでのみ流れるのだが、終わってからテンション上げたってしょうがない、戦闘にも使ってくれよと言いたい。

 レビュアー筋からは叩かれまくっているが、言うほどひどくない。結局のところ、叩きやすい箇所がハッキリしていると、わらわらと当たり屋が寄って来るということなのだろうな。

キャスティング 9
ギャグ 3
アクション 8
個人的総合 5

他の方のUN評
映画『アンダーニンジャ』は面白かったのか? …「たかが黄昏れ」、面白そう!

posted by Dr.K at 00:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月18日

正体

 鏑木は、殺人の罪で服役中の死刑囚。獄中で自傷に及び、救急車で運ばれるように仕向けて見事脱走する。次々に変装し、仕事を変えながら逃げ続ける彼を演じるのは、今年の大河ドラマでも主役に抜擢された横浜流星。
 逃亡生活中、仕事や人間関係で、彼の善性を感じさせる描写がある。また、彼が無実を主張していることもわかる。とはいえ、こんなタイトルの邦画である。結局は捕まってしまうのではないか。あるいは、彼には二面性があり、本当に殺人犯なのではないか。

注:以下にネタバレを含む

続きを読む
posted by Dr.K at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月13日

カルキ 2898-AD

 お正月は、こういう景気のいいインド映画に限る。

 「マハーバーラタ」に描かれた神々の戦争から6000年、未来のインドは荒れ果てていた。富と自然は支配階級の〈コンプレックス〉に占有され、人々はスラム同然の町で暴力に怯えながら暮らすのだった。
 いやはや、これは面白い。宇宙にこそ飛び立たないが、まさにインド版「スター・ウォーズ」と言って差し支えない。それも、ep7〜9のような低空飛行ではなく、ep4〜6のような始まりの頃特有のワクワク感に満ちているのだ。
 主人公のバイラヴァ。〈コンプレックス〉に成り上がることを夢見るが、現状はやさぐれた賞金稼ぎだ。初期のハン・ソロのような立ち位置のキャラクターと言える。
 ブッジ。バイラヴァの愛車に搭載されたAIで、主人に厳しいツッコミを入れる名コンビ。女声ということもあって、R2-D2よりもだいぶ人間的に感じる。
 アシュヴァッターマン。6000年前の神罰で、死ぬことを許されない戦士。老人の姿で超絶アクションを繰り出す様は、オビ・ワンの進化形と言える。
 そして、スプリーム・ヤスキン。〈コンプレックス〉の支配者で、老僧の姿をしているが、幹部たちでさえ恐れる不気味な奴だ。エンディング間際で覚醒し、ああ、最高指導者スノークに期待したものが全部ある、と妙な感心をしてしまった。
 デザイン面がいちいち面白い。乗り物で特に良かったのが折り畳み式ホバーバイク。変形ギミックはやはりロマンがある。〈コンプレックス〉の砦は巨大な逆ピラミッドで、つい先日クリアした「メタファー」の城とそっくりなのがおかしい。城内で、胎児からエキスを採取し、母体をゴミとして捨てる邪悪な機構も素晴らしい。武器もかっこいいものが多いが、ライトセイバーがちょっとだけ出たのはご愛敬。
 主役にしてはバイラヴァの活躍が遅いな、と思っていたらなんと〈続く〉。良かった頃の「スター・ウォーズ」を感じる快作なので、続きもぜひ観たい。アシュヴァッターマンは不死だが、それを演じるアミターブ・バッチャンはすでに80を越えているので、なるべく早くお願いしたい。

スター・ウォーズ度 9
DUNE度 8
ワカンダ・フォーエバー度 6
個人的総合 8
posted by Dr.K at 00:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年01月03日

モアナと伝説の海2

 前作は大好きな映画だ。ディズニー作品には珍しく、感動や教訓を重視せず、アクションと映像美に振り切って神話そのままを語る、という潔いところが良かった。

 今回は、その続編ということで、あらゆる面でパワーアップを意図している。
 まず旅の目的。故郷の島を守るため、という小さな目的から、他の島の人々とつながりを取り戻す、という大きな目的に変わった。
 次にキャラクター。モアナは成長して力強くなったので、代わりに妹のシメアがかわいらしさを引き受ける。マスコットとして、不愛想なニワトリだけでなく子豚が加わる。船も大きくなり、新しい仲間として、各分野のスペシャリストが同乗する。個人的には、カカモラの戦士が仲間に加わる展開が嬉しかった。
 そして映像。ミュージカルシーンも派手、アクションも相変わらず素晴らしい。しかし、最も進化したのは日常的な部分でのモーションではないだろうか。踊りのちょっとした動作、表情の動きなどがとても生々しいと感じた。副作用として、ポリネシアの人々のはずが、アメリカ人に見えてしまうことが多々あったのが、今後の課題と言えるかもしれない。
 では、それらのパワーアップによって、前作より面白くなったのかというと、そうではないというのが残念なところ。スケールが大きくなったぶん内容が散漫、結末まで行っても語り切れていない、という消化不良感があるのだ。例えば、ラスボス本人がモアナの前に現れず、エンドロール後の顔見せ。さらなる続編が前提となっている作りにはがっかりさせられる。ディズニーは今後の予定をある程度公開しているが、「モアナ3」があるとしても、少なくとも5年は待つことになろう。間で実写版が挟まる予定なのもややこしい。

映像美 9
楽曲  7
完結性 4
個人的総合 6
posted by Dr.K at 12:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年12月28日

珍品堂が勧める2024年の映画ベスト3

 次点は「フォールガイ」。記事では今年最高となる評価9を付けましたが、典型的な〈そのときだけ面白い〉映画なんですよね。この年間ランキングでは、もう一度観たいと思える作品を優遇させてもらいました。

第3位 ロボット・ドリームズ
 一見、子供向けかと思うビジュアルですが、全く子供向けではないのでぜひ観に行ってください。これは、すべての観客の背中をそっと押してくれる、大人のおとぎ話。特別な人が大活躍するのだけが映画ではない、ということを今さらながら思い出させてくれました。ファンの支持も厚いのか、ロングランになってますね。

第2位 侍タイムスリッパー
 たまたまめぐり合わせが良かったのかもしれませんが、観客の一体感が素晴らしく、まるで観劇のようでした。自主制作の手作り感が、皆にそういう気持ちを起こさせているのかもしれません。昨今の映画館ではなかなかない貴重な体験となりました。時代劇にはさほど興味がない私ですが、ストーリーも充分楽しめました。

第1位 マッドマックス:フュリオサ
 圧倒的な世界観で、映画に飲み込まれます。こんな感覚が味わえる作品は、年に何本もありません。巻き込まれ型の主人公だったマックスと異なり、フュリオサは自分の意志で運命を動かしていくので、シリーズとは言え、ストーリーの質がかなり異なります。最後まで観ると、前作「怒りのデス・ロード」がより名作に感じられるようになるのも、うまい作りです。
mmf.jpg
posted by Dr.K at 10:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年12月24日

さよなら銀河鉄道999 −アンドロメダ終着駅−

 現在、「銀河鉄道999」が全国でリバイバル上映されている。そこで、「さよなら銀河鉄道999」も併せて上映してくれるのが塚口サンサン劇場の素晴らしいところだ。昔を懐かしんで観た「銀河鉄道999」とは違い、私にとって「さよなら銀河鉄道999」は今回が初見となる。

 地球へ帰っていた鉄郎を再び旅立たせ、マンガから未使用のエピソードを引いて間をつなぎ、オリジナルの結末へと進むストーリーは、よくこんなものが作れたな、と驚くばかりだ。
 アニメーションも前作から進化。特に、機械化都市が崩壊するシーンのこだわりがすごい。2001年の「メトロポリス」も崩壊シーンがすごかったが、あれは大友克洋じゃなくりんたろうの趣味だったのだな。
 黒騎士ファウストが鉄郎の父だった、という展開はまんまダースベイダーだが、「帝国の逆襲」の公開一年後というのはパクるにしても早すぎる。前作にはいなかった人外タイプの宇宙人がたくさん登場するところからも、「スター・ウォーズ」がやりたいんだ、という作り手の意志が垣間見える。
 終盤、〈サイレンの魔女〉の場面が奇妙だ。ブラックホールのような現象が、機械を引き寄せ吸い込んでいく。これによって機械都市は壊滅するが、999も飲み込まれそうになり、石炭駆動に切り替えて乗り切ろうとする。999に蒸気機関が存在したことがまず驚きだが、たとえ手動運転にしたところで機械は機械なので、吸い込まれなくなるのはおかしい。
 つまり、ここで言う〈機械〉はただの機械ではなく、人工知能とかコンピューターとかそういうものを指しているのだろう。今だったら、AIをハッキングした、というような表現になるはずだ。当時、概念としてまだ一般的でないこれらを〈機械〉と言い表したために、奇妙なことになってしまったのだと思う。SFとして、あまりに先んじた設定だったと言えるかもしれない。
 前作は、鉄郎がメーテルを見送ったが、今回は、メーテルが鉄郎を見送るところで終わる。続編として、非常に美しい締めになっていると思う。

原作逸脱度 8
動きの癖 9
破壊描写 10
個人的総合 7
posted by Dr.K at 00:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年12月16日

銀河鉄道999

99901.jpg
 惑星ヘビーメルダーには、まるで西部劇のような風景が広がる。鉄郎は、仇である機械伯爵の情報を求めて、この星の酒場を訪れた。小さなステージで、謎の美女リューズが、昭和歌謡とも演歌ともつかぬ曲を歌っており、荒くれ者の酔客は皆涙に暮れている。その中には、松本零士の自画像のようなオッサンもいる。鉄郎はバーテンに問う。なぜ皆は泣いているのか。

 劇場版「銀河鉄道999」が、公開45周年を記念してリバイバル上映を開始したので行ってきた。私は公開時はまだ映画に行ける歳ではなく、何年か後にテレビで観た。テレビアニメ版と鉄郎の顔が違っているのが気に入らず、長い長い旅路をわずか2時間にまとめているのでスケール感もない、となんだか不満だった記憶がある。
 ところが、今回劇場に行ったら大変なことになっていた。こんなものを子供が観に来ないのは百も承知だが、おそらくほとんどが公開時のファンだ。なぜ皆が泣いているのかわからなかった鉄郎に近い歳だった観客は、すっかり酒場の客の歳を越えて本当に涙に暮れている。私ももちろんそこに含まれている。大人になればわかる、歳をとればわかる、と何かと教えてくれない印象があった「999」だが、知らないうちにわかる時がきてしまっていた。松本零士や映画のスタッフは、観客がオッサンになってからもう一度これを観ることをどのくらい想定していたのだろうか。

99903.jpg
 入場に際して、特典が配られたがこれがまた感涙ものである。ICカードになってから定期入れは使っていないが、このために旧式のやつを探そうかな。

99902.jpg
 最後に一つだけ文句を。松本零士はおよそキャラクターの描き分けができない漫画家である。「キャプテンハーロック」を知っている人なら、傍らにいる女性がミーメなのは周知のこと。だが、それを知らない観客には、シャドウと見分けがつかないので、冥王星を出てハーロックの配下に入ったのか、などと誤解してしまう。もう少しデザインを変えられないもんか。

ノスタルジー ∞
動きの癖 9
破壊描写 9
個人的総合 評価不能
posted by Dr.K at 00:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年11月30日

ロボット・ドリームズ

 傑作との評判が聞こえてくるが、およそ前時代的なビジュアルなので行くのをためらっていた。しかし、日本では「ブランカニエベス」以来10年ぶりとなるパブロ・ベルヘル監督作品と知って観ないわけにはいかない。

 ニューヨークで孤独に暮らすドッグが、友達ロボットを購入。今までとは違う、楽しい日々が始まったが、調子こいて海水浴に行ったらロボットが故障してしまった。ロボットを運び出せないまま海水浴場はオフシーズンで閉鎖され、ドッグは万策尽きる。

以下はネタバレなので読まずに映画館へ!

続きを読む
posted by Dr.K at 23:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする