2019年10月13日

海よりもまだ深く

 このたびの台風で、被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。

 是枝裕和監督の新作公開に合わせた、テレビ初放送。よりによって、台風の前日という設定の物語であり、臨場感が半端ない。
 阿部寛が主演ということもあり、2008年の「歩いても歩いても」と雰囲気がそっくり。さらに、樹木希林が元気だったので、同じ頃の映画かと思ったら、2016年の作品と知りびっくり。メジャー監督となってから、再びこんなのを撮れる人はそういない。
 主人公は、小説で一度は賞を獲ったものの、その後は鳴かず飛ばずの男。取材と称して興信所に勤めているが、まじめに働いているとは言い難い。別れた妻にも未練たらたらで、月に一度、息子に会うのが何よりの楽しみだが、その時に渡す養育費にも事欠くありさま。せっかくお金を得ても、競輪ですってしまうなど、とにかく情けなくどうしようもない男だ。物語は、台風によって若干の展開を見せるのだが、彼が劇的に変化することはない。こんなはずじゃなかった、という人生を母役の樹木希林が力強い諦観で包み込む。
 「そして父になる」や「海街diary」のようなハッキリした話は他の監督でも撮れるかもしれないが、このぼんやりとしてしみじみとした味わいは、他では代えがたいものがある。是枝監督には、時々でいいので、今後もこの路線の作品をお願いしたい。

生活感 10
キャスティング 10
盛り上がり 1
個人的総合 7

他の方の注目すべきレビュー: 忍之閻魔帳 モンキー的映画のススメ
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2019年10月03日

「ぼくらの七日間戦争」の予告編が嫌な感じ


 年末に公開予定のアニメ映画の予告編。
 GAGAと角川がタッグを組み、なつかしい作品を現代の設定に改めてアニメ化、声優には人気俳優を起用、と大ヒットを狙っている気配プンプンだが、いや〜、これは嫌な匂いがプンプンするぜ。
 まず、水色や白のテロップ。そして強調される入道雲。ものすごく細田守っぽい。
 そして、気合の入った風景だけのカット、疾走感のあるロックの歌。新海誠の「君の名は。」とそっくりだ。
 売れた作品の表面をなぞって一丁上がり、これは下品ですわ。「君の名は。」の次を狙ったアニメはいくつもあったけど、いずれももう少しオリジナリティがあったぞ。恥を知れ。
 こんな批判を覆すくらい、実際の中身は面白いという番狂わせに期待する。宗田理の原作は名品なんだからね。
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2019年09月25日

プロメア

 5月に公開された、知名度もそれほどないアニメ映画が、根強い支持で9月の今もやっている。観れば納得、なるほど、これは他では代え難い味のある作品だ。ただ、オッサンの私にはちょっとついていけなかった。

●前日譚付き上映
 面白くなりそう、と思ったところで急にエンディング。おっと、これは前日譚付きの上映だった。もともとは特典映像だったものを、ロングランに伴って、全員に公開するようにしたものらしい。お得と言えばお得なのだが、繰り返しになる部分もあるし、本編に入るまでに都合3回会社のロゴを見なければならない。

●激しい映像
 紫がかったコントラストの高い絵柄で、動体視力の限界を無視した勢いでカメラが動きまくる。何がどうなっているのか、見失うこともしばしば。お世辞にも親切な映像とは言えない。のれた人にとってはとてつもないドラッグムービーになり得る。

●勢いだけのストーリー
 人類対能力者、そして地球の破滅という、古典的なSF物語をベースにしているが、とにかくビジュアルのインパクトに全振りなので、物事はすべて勢いだけで解決する。ゲームとかスポーツとか、もっとどうでも良い対決を題材にすれば、あまり違和感なく観れたのに、という気がする。キャラクターも掘り下げるつもり0で物足りなかった。

●想定外のファン層
 いくら映像がスタイリッシュと言っても、漢祭りのロボットアニメ。観客はあらかた男だろう、と思っていたが、意外にも女性ファンが多い。タイガー&バニーあたりと間違えてやしないか。それとも松ケンのファンなのか。

●熱演の声優陣
 主人公ガロ役の松山ケンイチが大健闘。叫ぶセリフが多いのに、プロに負けないテンションでやりきった。クレイの堺雅人も豹変するキャラを見事に演じている。逆に違和感があったのがルチアで、ちゃんとベテラン声優がやっているのに声を作りすぎである。

 こういう先鋭的なビジュアルの長編は非常に貴重なのだが、スパイダーバースに数か月先を越されてしまったのが残念だ。

声優の人選 8
オリジナリティ 9
親切さ 2
個人的総合 5
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2019年09月15日

E.T.

 新開地の名画座パルシネマにて、「ジョーズ」との二本立てという素晴らしい企画があったので観てきた。実際に劇場で観た経験があるのはシニアに近い世代となり、私はテレビでやってたのを観た世代。もっと若いと、USJのアトラクションで知ってる、という感じになるのだろう。
 ただなつかしいだけでなく、昔の記憶がいかにいい加減か、痛感する体験となった。

●実は怖い映画
 他の映画を観に来たとき、「E.T.」の予告編が流れた。封切り当時のものだと思うが、まるでホラーかサスペンスかという怖い見せ方で驚いた。本編の始まり方も、エイリアンに匹敵する不気味さであり、実は怖くないという落差でインパクトを与えるという意図が見えた。

●E.T.の超能力
 自転車が飛ぶ有名なシーン、クライマックスのものは憶えていたが、中盤のものを忘れていた。こんなに早く飛んだっけ? と驚いてしまった。
 他にもE.T.は宇宙人ならではの超能力を使う。ものを動かす、花をよみがえらせる、けがを治すなどである。ところが、E.T.と少年が感覚を共有することはすっかり忘れていた。これによる学校での騒動はほとんど覚えがなかった。

●実はリアルな映画
 CGがない時代の作品なので、E.T.は着ぐるみやロボットである。しかし十分リアルに見えた。
 CGと比較すると、実物がそこにある分、役者は演技がしやすい。また、E.T.がものにぶつかったり、部屋を散らかすシーンがあるのだが、これも実物で撮るので自然である。CGでは周囲のものに影響しないので、こういうシーンでは特別な工夫をしなければいけない。
 川で倒れているE.T.は本当に生き物の死体に見える。これもCGではあまりお目にかかれないリアルさだと思う。

●科学者
 E.T.の調査に来た科学者たち。恐ろしい敵として描かれるのだが、この中に一人少年の理解者がいる。あまり説明もないのだが、過去に同じ宇宙人と遭遇し、それがきっかけで科学者になったのだろうと思われる味わい深いオッサンだ。少年も将来こうなるのかな、とか、母と距離が近いけど付き合ったりするのかな、とか、いろいろ想像がふくらむ。

●ヨーダ
 ハロウィンの場面で、ヨーダが登場する。E.T.が仲間と思って話しかけるコメディシーンとなる。これが全く記憶になかった。テレビ放送でカットされていたのだろうか。あるいは、当時の私がまだ「スター・ウォーズ」を知らなかったために印象が残らなかったのかもしれない。

 子供向けということなのか、変にひねったところがなくストレートに話が進む。こういう洋画が今は本当になくなった。また、「ジョーズ」もそうだが、事件が終わると、後日談などなくあっさり終わるのが昔の映画らしくていい。古い映画を見返すことは少ないが、これからは時々やってみようか。

リメイク必要度 1
名曲度 9
自転車アクション 8
個人的総合 7
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2019年08月23日

グリーンブック

 ちゃんと面白い。何よりもそのことを評価したい映画です。

 1960年代の南部アメリカを舞台に、根強く残る人種差別を描いた作品。しかもアカデミー賞作品賞となれば、まじめに観ないと、と余計なプレッシャーを感じてしまうのも無理はありますまい。
 しかし実際は、軽快で観やすい内容。主人公のトニーは、無学で乱暴なイタリア系白人。クラブの用心棒をしていましたが、クラブが改装となった休業中に、運転手の仕事を頼まれます。依頼主のドナルドは、黒人ながら世界的なピアニスト。ここでは、白人の方が庶民で使用人、黒人の方が教養ある富豪、と立場が逆転しています。トニーは普段見下していた黒人とは勝手の違う相手に四苦八苦。そのちぐはぐさが笑いを生んでいます。フライドチキンのシーンやピザの食べ方が印象に残るあたりも、娯楽性の高い絵作りと言えますね。
 二人は南部への演奏旅行で、北部では表立っていなかった差別的な慣習に触れ、徐々に同志となっていきます。トニー自身がもともと差別意識を持っており、決して正しい奴ではありません。そのことで、説教臭くなく差別の非道さが伝わってきます。この雰囲気は、「最強のふたり」とちょっと似ています。
 声高にテーマを訴えず、個人的で心温まる結末に導いていく、品のいいエンターテイメントとなっていました。下品この上ない「メリーに首ったけ」と同じ監督とは思えませんね! お見事です。

面白さ 7
説得力 8
後味 9
個人的総合 8
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2019年08月16日

天気の子

 音と映像が心地いいので騙されますが、ちょっとこれは乗れませんでした。

 まず冒頭、陽菜が登場するやいなや、雲の向こうへぶっ飛びます。ファンタジー性の強い話なのだな、という第一印象です。
 ところが一方、帆高は歌舞伎町で地べたを這うようなホームレス同然の暮らし。意図的な対比なのは明白ですが、バニラトラックをはじめとした実在ブランドの露出により、リアルが勝ちすぎてバランスがおかしくなっています。
 おかしいと言えば、構成もそう。彗星が落ちる瞬間に向かって、緻密に組み立てられていた「君の名は。」と異なり、こちらは何かと行き当たりばったりです。帆高が子供だからしょうがないんですが、主人公の意志に任せたらストーリーが散らかってしまったという感じです。大人として状況を俯瞰せず、帆高に目線を合わせられるかどうかが、このストーリーに乗れるかどうかの分かれ目と言えます。

注:以下は結末に触れています

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2019年08月13日

旅猫リポート

 いつも映画のテレビ放送に興味を示さない母が、かじりついて見てた。
 実は私も、映画館で予告となるチラシを手にした瞬間から興味津々だった。物語に惹かれたのではない。主演のネコのたたずまいが、家に遊びに来るお馴染みのネコにそっくりだったのである。
 映像で動いているのを観ると、その感覚はますます強くなった。「世界ネコ歩き」をはじめ、ネコ番組はけっこう観ているのに、こんなに親近感のわくネコは初めてだ。

 病気で余命を宣告されたサトルが、飼い猫のナナをあずけるために、各地の旧友を訪ねるというストーリー。それぞれの旧友とのエピソードが連作の短編のようになっており、サトルの過去についてもじょじょに明かされていく。有川浩の原作らしいか進め方だと思った。
 さて、この映画では、ペットたちは人語を解しており、吹き替えによってしゃべるという演出になっている。同じような設定の物語はたくさんあるのに、なんだか違和感があった。動物の行動に作られた感じがないのに、それに作られた声が乗るせいだろうか。ナナ役の高畑充希のセリフがハッキリし過ぎているからだろうか。一部の場面で鳴き声や吠え声にセリフが重なっているせいだろうか。理由はよくわからない。

 サトルとナナだけの場面が多いので、画面をもたせるのにはかなりの実力を要する。ナナの演技が素晴らしいのに、サトル役の福士蒼汰が完全に負けているのはご愛敬。

人演技力 5
ネコ演技力 10
予定調和度 8
個人的総合 5
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2019年07月30日

バジュランギおじさんと、小さな迷子

 館長の今年一番のお勧め、とのことで観てきたが、確かにすごかった!

 物語はパキスタンの山奥から始まる。幼いシャーヒダーは、遊んでいて斜面を転げ、崖から落ちてしまう。え、そんな乱暴な理由で迷子になるの? と一瞬驚くがこれはフェイント。実際には、インドへ願掛けの旅行に行き、母とはぐれてしまうことになる。
 迷子のシャーヒダーは、祭りの中でバジュランギと出会う。主人公の初登場となるこのシーンは、インド映画らしい大群舞。堂々たる歌と踊りに、どれだけの大人物なのかと思うが、実はただの人だ(笑) そもそもこの歌は、伝統的な祭りの歌でも何でもなく、バジュランギが自己紹介をし、自撮りをしよう、と呼びかけるだけのしょうもない内容。振り付けに自撮りが組み込まれており、伝統と新しいものとがごたまぜになっている。
 バジュランギは彼女がどこの子か突き止めようとするが、彼女が口もきけず、字も読めないために手掛かりが得られない。表情とジェスチャーだけで語る彼女の愛らしさは、そりゃ助けたくなるよなあ、と物語の動機に強い説得力を与えている。
 バジュランギは馬鹿正直な人物で、そのせいでコメディシーンになるかと思えば、突然ヒーローになり、観客を感動させもする。幼い迷子を親にとどける物語なんて、日本だったら単館系の文芸作品にしかなるまい。ところがこれは、彼一人の行動が国家の歴史的な対立関係を変化させていく。そんな展開に現実味がないと言われればそれまでだが、娯楽というのは本来、そうした大きな理想を語るべきものだったのではないか。

 インドでの映画は、娯楽の王様。長い上映時間の中で、笑いも涙もアクションもすべてを飲み込んで一つの物語を成立させる。それを証明する一本として、これほどふさわしいものはないだろう。

主役の若々しさ 10
娘役の演技力 10
スケールの大きさ 9
個人的総合 9
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2019年07月28日

家へ帰ろう

 外国のご老人はどうしてこうも味があるんでしょうか。

 アブラハムは、アルゼンチンに暮らすおじいさん。どうやら老人ホームに預けられるらしく、娘たちが家の片づけをしています。そこで見つかった一着のスーツ。アブラハムは、70年前の友人との約束を思い出し、家族に内緒で故国ポーランドへ向けて一人旅立ちます。
 かつてユダヤ人として迫害を受けたアブラハムにとって、故郷は恐ろしく、忌まわしい思い出とともにあります。旅の途中で出会った人々が、その思いを少しずつ解きほぐしていく様子が心に染み入ります。
 そしてついにたどりついた、かつての家。アブラハムは友と会うことができるのでしょうか。

注:以下、物語の結末に触れています

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2019年07月17日

海獣の子供

 「大切なことは言葉にならない」
 と、エンドロールで米津玄師が歌っていますが、全くその通りの映画です。とてつもなく豊かな映像と反比例するかのように、抽象化された言葉は何も伝えてくれません。

 夏休みを迎えた少女の日常から始まった物語は、〈海獣の子供〉である二人の少年との出会いをきっかけに、〈誕生祭〉と呼ばれる神秘の場所へと導かれていきます。この振れ幅の大きさは、「2001年宇宙の旅」にも匹敵します。
 全編が生命に満ちています。元気な少女、海中で躍動する少年たち、そして周囲を埋め尽くす海洋生物。CGで作られた部分も、特有の冷たさがなく、生々しく描けていて感心しますね。一方、地上の生命を象徴するのが、昆虫たちなのですが、なぜか蝶やカブトムシといったメジャーな奴は出てこない。カミキリムシやマイマイカブリが出演するというのは、相当にマニアックです。
 クライマックスとなる〈誕生祭〉の映像は、壮大なイメージの奔流となってすべてを包みます。しかし、ただわけのわからない映像とはちょっと違います。一つ一つはいずれも具体的な実在のもの。銀河だったり、微生物だったり、古代魚だったりと、図鑑を探せば出てくるものばかり。でも、それらがどんな脈絡になっているかわからないので、とても不気味なイメージになっているのですね。生命の誕生という極小の現象と、星の発生という極大の現象とがつながるという世界観は、「火の鳥」でも見たことがあるのですが、先導して解説してくれる火の鳥がいないこの物語の方が、より突き放した感覚を与えます。
 ラストシーン、少女は母の出産に立ち会い、赤ちゃんのへその緒を切ります。一般的にはめでたいこの場面を、少女は「生命を断つ感触がした」と語ります。羊水は海と同じ成分、というのはよく知られていますが、そうなると出産とは赤子が海から切り離される瞬間でもあるわけで、〈誕生祭〉を経て変化した少女の感性が表現されているのだと思います。
 原作はもっと詳しいらしいので、機会があれば比べてみたいと思います。

映像美 10
神秘性 10
面白さ 3
個人的総合 6

他の方の注目すべき批評
忍之閻魔帳: アシュラと並べるのは驚き
Yuenosu@Revue: わかりやすい考察

posted by Dr.K at 22:58| Comment(0) | 映画一刀両断 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする