2017年05月07日

「進撃の巨人」31 戦士

 ついにこの話まで到達した。マンガで読んだとき、この作者どうかしてるんじゃないか、と思った名場面だ。
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まるで立ち話でもするかのようなさりげなさで、ライナーが正体を告白する。マンガでは、コマの端っこに小さく描かれるという常識外れの演出が施されており、二度見三度見してようやく内容を理解する読者が続出した。また、衝撃のネタバレとして、スキャンされた紙面がネットにも多数アップされたが、コラ画像だと思って信じなかった人もいたらしい。
 アニメでは、その内容を忠実に再現。ハンジたちの会話がノイズとして間にはさまることで、よりどうでもいい話のように聞こえるところがうまい。ライナーの声の演技にも磨きがかかっていて、ベルトルトの「彼は疲れているんだ」という言葉を真に受けてしまいそうになる。

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 それにしても、状況を見守るミカサの顔が怖すぎる。ひょっとしてライナーたちの話が聞こえているのだろうか。

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2017年05月03日

諸星大二郎「BOX 〜箱の中に何かいる」2巻

morobox2.jpg 「西遊妖猿伝」の新刊が出ないな、と思っていたら、諸星先生ったら別の連載をスタートさせていたんですね。しかも久しぶりの現代劇です。

 「BOX」は、謎のパズルに招かれた数人が、「箱」からの脱出を目指すという物語です。状況だけ見ると映画「CUBE」のようです。
 ですが、中身はいつも通りの諸星ワールド。「箱」の中では得体のしれない化物が跋扈し、一部では妖術バトルまで繰り広げられており、舞台さえ中国なら「諸怪志異」シリーズに入れておかしくない内容です。
 特筆すべきはキャラクターで、パンチラお姉さんやら、頭の足りないゴスロリ少女やら、諸星作品と縁のなさそうな人物が容赦なく取り込まれています。2巻ではついに主人公がボーイズラブ展開に巻き込まれることとなりました。しかし、ベテランが無理に世相を取り入れているような苦しさはなく、何をどう描いても諸星作品でしかないのがすごいです。クイズやらおまけやらもあり、先生自身が楽しんで描いているようで何よりです。
 とはいえ、なるべく早く悟空を天竺へ向かわせてほしいのですが。
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2017年04月20日

「進撃の巨人」28 南西へ

 楽しんでいることは間違いないのだが、面白さの方向が明らかにずれている。
 私はマンガを読んでおり、つまり先の展開を知っている。その状態で見ると、このセリフをこいつに言わせるか、ここでこんな意味深な行動をするか、と伏線がみんなわかってしまう。まるで推理ものの解決編を見ているような気分になる。
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 ウトガルト城に獣の巨人が現れた時、ことさらにびびっているのがこの3人というのも、無作為な選択じゃなくて演出なのだな。巧みだなあ。
 不気味なエンドロールも、最新刊の22巻を読めば、その意味がわかる。隅々まで情報が詰め込まれた充実のアニメだ。
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2017年04月14日

花沢健吾「アイアムアヒーロー」22巻

iamahero22.jpg 雑誌を読んでいないので、この巻で完結ということに驚いた。中身を読んで、予想を裏切る結末にうろたえた。
 ZQNのすべてが明らかになる、とは思っていなかったものの、比呂美があんな形で放り出されるとは思わなかった。AMAZONのレビューも大荒れである。

 だがこれは失敗ではない。作者は恐らく、覚悟のうえでこの結末を選んだのだと思う。
 中田コロリは、何人かの仲間とともにヘリで脱出。離島で平和な暮らしを取り戻す。この流れは、王道も王道であり、中田は見事ヒーローとなった。
 一方、鈴木英雄は、わずかな判断の差によって、中田と会うことができない。結ばれたはずの比呂美とは敵対する。誤ってクルスを守ろうとしたり、中田を狙撃しそうになったりする。そして、東京でただ一人の生存者となり、孤独なサバイバル生活を続ける。
 もしも中田と合流できていれば、もしも比呂美と和解できていれば、もしもクルスと戦っていれば…英雄にはタイトル通り「ヒーロー」になれる機会が何度もあったのに、それをことごとく逃す。少年マンガ的な予定調和の否定である。
 1巻で、英雄は妄想に生きる孤独な生活者だった。最終章のサバイバル生活は、その状況に似せて描かれる。しかし、今度は本当に人がいない真の孤独である。そして、いきなり挟まれる東日本大震災の描写は、この世界が英雄の妄想ではなく現実であることを示す。夢オチや精神世界オチの可能性を否定しているのだ。
 ここで英雄が絶望して死ねば、インパクトのある結末にできた。だがそれもしない。誰もいない希望もない世界で、生きるためにただ生きる。それができるのは、鉄の心をもったヒーローだけではないのか。英雄の前向きな一歩を雪の上に記したところで、作品は唐突に終わる。
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2017年04月07日

「進撃の巨人」26 獣の巨人

 ↓アイキャッチも無駄にせず、謎を提示していくスタイル。(クリックで拡大します)
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 4年ぶりに始まった第2シーズン。
 今さらおせーよ、という悪態を跳ね返す面白さ。これで実写版の悪夢はきれいさっぱり忘れられる。
 巨人の走り出しが面白すぎて、ふざけてんのか、と思ったが原作もその通りだった。アニメ化にあたって、原作の演出を忠実になぞりつつパワーアップしてあるのだな。素晴らしい。唯一文句があるとすれば、すでにマンガを読んでいて先がわかってしまっていること。記憶を消して新鮮な驚きを味わえたら、どんなにいいだろう!

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 これまでは、エンディングもかっこいい歌だったのだが、今シーズンのは超キモい。巨人サイドの世界観を表現しているのかな。不快でインパクト絶大だ。
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2017年02月11日

三部けい「僕だけがいない街」9巻

bdim9.jpg え、8巻で完結したんじゃなかったの?

 と一瞬びっくりする人もいたのでは。9巻は、完結後に雑誌掲載された外伝「僕だけがいない街Re」をまとめたもの。
 つまらないわけじゃないけれど、こういうのあんまり良くないと思うのよ。
 このマンガ、本編にものすごく余白がある。主人公が長い昏睡を経て起きるので、その間他のキャラがどう過ごしてきたかわからない。でも、そういう隙間をあれやこれや想像するのも読者の楽しみのうちだし、主人公と犯人とに焦点を絞るのも大事だと思うんだ。
 ところがこの外伝では、作者が自ら隙間を埋めてしまっている。他人が描いた同人なら、その人なりの解釈ということで済ませられるけど、作者が描いたらそれは唯一の公式なわけよ。なんか、作品が閉じちゃった感じがして残念。ただ、これも今どきの読者の要請なのかな、とも思う。何かというと説明不足、と文句を言う奴多いもんね。

 売り方もよくない。こんなの昔だったら、外伝とか別巻とかで出るもんでしょ。ナンバリングに入れて少しでも余分に売ろう、という出版社の必死さが嫌。アニメにも映画にもなって大ヒットしたのでファンサービスです、くらいの余裕を見せてほしいもんだよね。三部けい、もう泡沫作家じゃないんだから。
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2017年02月04日

アサイ「木根さんの1人でキネマ」3巻

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 あ〜、これまずいなあ。長期連載の罠にはまっていってるかもなあ。

●マニア向けの罠
 木根さんがエヴァンゲリオンを初めて見るという話があるのだが、この面白さ、TV版を全部見ている人にしか伝わらない。マニアに刺さるように深く掘り下げると、やっぱりこうなっちゃうのかな。木根さんの素晴らしさは、題材となっている映画を知らなくてもマンガそのものが面白い、というところにあると思うんだけど。
 その意味では、この巻のホラー回は秀逸。

●キャラ追加の罠
 長期化にともない、木根さんと佐藤さんだけでは話がもたなくなってる。そこで、過去のゲストキャラクターが再登場し、準レギュラーに昇格しつつある。会社の同僚やら上司やら同窓生やらだ。スター・ウォーズのオッサンたちにはこれからも毎年一回出てほしいが(笑)、個人的に要注意と思っているのが、映画好きが発覚した工藤ちゃんと、アニメ大好き主婦。この個性は、木根と佐藤を食ってしまう恐れがある

 このままずるずると、キャラの多い薄いマンガになってしまうくらいなら、早く幕を引いた方がいいのでは、と思ったりするのだが、今後の展開やいかに。
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2017年01月14日

いつのまに路線変更? 「田中圭一のペンと箸」

pentohasi.jpg 田中圭一と言えば、手塚治虫を筆頭とする多くの有名漫画家の絵柄をマスターし、彼らが到底描かないであろうくだらない下ネタマンガを完成させることで有名。当ブログでも頻繁に話題になっている。

 ところが、新刊の「ペンと箸」は趣が違う。もともとはグルメサイトに載っていたWebマンガで、有名漫画家のご子息にインタビューし、親と食べ物にまつわる話を聞くというもの。
 文章だけだったらそんなにインパクトのないこの企画で、田中圭一が長年の技を発揮。毎回その漫画家の画風を完全再現して一篇を描き切る。その数なんと23人。しかも、くだらない下ネタを封印して、親子のいい話を丁寧にまとめていく。控えめに言って名著である。
 だが、長年のファンとしては言わねばなるまい。こんなきれいな話、田中圭一じゃない! 昔やんちゃだった奴が突然いいことをしたような、ビリギャルが大学に入ったような、端的に言ってずるい。

 そういえば、年明けに話題になった「さよならのお皿」もいい話だった。今後はこっちの路線で行くのだとしたらちょっと残念だ。まあ、くだらない方は、同人誌で続けるんだろうとは思うが。
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2016年12月29日

珍品堂が勧める2016年のコミックベスト3

 今年読んだ中で最も良かったのは「この世界の片隅に」です。映画と比較すると非常に楽しめるのでお勧めなのですが、今年出版された本ではないのでランキングには入れていません。

第3位 花沢健吾「アイアムアヒーロー」
 実写映画が公開され、年内3冊の単行本を発行。今までのペースを考えると、明らかにオーバーワークです。力尽きずにこれからの盛り上がりを描き切れるかどうか、来年が正念場です。

第2位 三部けい「僕だけがいない街」
 連載マンガは、結末をきちんと描くことが非常に難しいのですが、これは合格。映画よりもいい終わり方になっていたと思います。単行本派なので外伝はまだ読んでいないのですが、面白いんでしょうか。

第1位 アサイ「木根さんの1人でキネマ」
 いやあ愉快愉快。繰り返し読みたくなりますね。2巻では、ジブリ回と吹替え回がお気に入りです。それにしても、1巻はジェッツコミックだったのに2巻からヤングアニマルコミックにレーベル変更したのは謎です。
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2016年11月29日

こうの史代「夕凪の街 桜の国」

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 「この世界の片隅に」が素晴らしかったので、こうの史代の他のマンガまで買ってしまいました。いやはや…

 読むとわかるのですが、こうの先生のマンガは、進化している! 確実に!
 まず、「夕凪の街」ですが、これはこうの史代が初めて広島を扱った作品です。終盤の強烈なメッセージ性によって、各種マンガ賞を受賞しました。確かにインパクトはあるのですが、原爆への怒りが生の形で表出しており、ある種異形の作品となってます。
 その続編である「桜の国」は、戦時中を知らない少女を主役にし、笑いも交えたホームドラマのような進め方になっています。しかし、「夕凪の街」から現在までが地続きにつながる仕掛けによって、この連作は独特の充実感をもって終わります。直接的な怒りは表現されず、広島を背景とした恋愛ものとしても読める内容になってます。
 これらの作品の延長上に、「この世界の片隅に」が位置するのだなあ、と大いに納得した次第です。
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